過激に可憐なデッドエンドライブ-14
そして更に十分後。
「…」
「ちょっと、やだテツくん、そこは…」
エレベーターに乗った辺りから、俺はずっとさくらにしがみついていた。
なぜか妙な声をあげるさくらを無視して、ひたすらここは地上、ここは地上と自分に言い聞かせている。
「はは、仲がいいな二人共」
真っ青な顔で、小刻みに震えている俺を見てもキョウはまったく気付かないように、黙々と旅行の手続きを済ませている。
「…キョウ…ハヤク…」
いつのまにか、俺は口下手な外国人キャラのようになっていた。
「そんなに急かさないでよ。今、確認して貰ってるんだから」
にこやかに俺の切願を受け流すキョウ。
これは、なんだろう。何かの罰ゲームなのだろうか。今までロダンや高山をいじめてきた罰なのか。いやそれでも全く反省する気にならないけど。
「あはは。いつもとキャラが全然違う〜、かわいい」
さくらが大笑いして、しがみつく俺の頭を撫でている。
完全に遊ばれていた。が、すぐ背後の窓には街の夜景が広がっていて、俺はただたださくらの肩に回した手を強める他なかった。
「いつも屋上で練習してるのに」
こんなに密着しているのにさくらは嫌がるどころか面白がっている。
「…カベ、タカイ」
※訳、屋上の外壁は高くて外が見えないから平気、という意味である。
「あの、お客様どうされました? 顔色が優れないようですが」
そんなとき、受付のお姉さんが俺のただならぬ様子に気付いて声を掛けてくれた。
いいえ、お気遣いなく。そう口を開こうとして。
「…ウルサイダマレ」
自分でも信じられない返答が口から出た。
でも、仕方ない。
こいつらがこんな場所に店を開かなければ俺はこんな目に遭ってないのであるだいたいビルの五十五階なんて誰も人が来ないだろうが高所恐怖症の人間を苦しめるためだけにあるようなドS旅行店めアホ死ねお前の母ちゃんデベソ。
「…お客様?」
そんなたくさんの気持ちを込めるとどうしても口が悪くなってしまうのである。
「もうテツくん。そんな悪いことを言う子は…」
完全に引いてるお姉さんを助けるように、さくらが俺の腕をがしっと掴む。
なんだかものすごく悪い予感がした。
「オシオキだぞ!」
さくらが俺をひょいっと抱えて、絶景の広がる窓まで走り出す。物凄い力だった。
「ひいいいいい!」
「あはは」
なんとも情けない声が口から洩れた。
それも仕方ない。今俺の目の前には超高層から見おろす絶景が広がっているのだ。街を走る車が小さく見え、人間は点にしか見えない。夜なので下は余り見えないはずなのに、ありがたくもない余計なライトアップのせいでくっきり見える。
「ば、ばか! やめろって、やめ、ごめんなさいごめんなさい!」
なぜか俺は謝っていた。
「きゃはは」
それを聞いたさくらが更に笑い出す。
「ふふ、楽しそうだなあ」
後ろでキョウが微笑ましく見つめている。
「いいかげん空気よめ!」
形振りかまわず必死に突っ込む。
―キーン
「え?」
その時だった。
急に耳鳴りがし始める。