過激に可憐なデッドエンドライブ-13
「ロダンくん!」
そんなくだらない惨状を制したのはさくらだった。
「めんどい」
一瞬で灰になるロダン。
ちょっとかわいそうになったけど、はっきり言ってナイと思う。
「早く行こ」
灰になった上、さらさらと飛んでいってしまいそうなロダンを無視してさくらが歩き出す。
「ねえ、ちょっとやりすぎたかな。いじめかなこれって」
キョウがおどおどとロダンを見て心配している。
そんなロダンは、キリーがここぞとばかりに蹴りを入れ放送禁止用語で罵っていた。ついでに川田が「うらやましい…」と連呼している。
「バカだな、キョウは。見ろよ、ロダンの奴、気持ち良さそうに涎垂らしてるじゃないか」
そうやってキョウを元気付けて、さっさとさくらに続く。
「え、あれって気持ちいい顔なの? 髪まで白くなってるよ? あ、ちょっと待ってよ!」
キョウが少しだけ大人の階段を昇った瞬間だった。
どれほど打ち合いを続けたのか。
気が付いた時には、辺りは闇に包まれていた。
「まったく、竜のお姫様は気性が荒いよね!」
細身の剣による斬撃を繰り出しながらヨシュアが口を開く。辺りが暗く、攻撃は見えづらい。が、男の剣が鈍い光を放っているのでなんとかかわせた。
「お前のような不逞の輩が、竜族を愚弄するな!」
文字通り牙を剥いて爪を閃かせる。
「ふはは! ヴァジュラもないアナタは、その輩と打ち合うのがやっとだろうに!」
言いながら男が隙だらけの大ぶりで剣を振るった。
その攻撃をなんとか爪で受け止める。
「え―」
瞬間、背後で湧き上がる凄まじい魔力。
自分のものでも、ヨシュアのものでもない、これは一体―。
「おっと、スキあり!」
男は後ろを振り向いたかと思うと、同時に腹部に重い衝撃を受けた。
「うっ!」
飛びそうになる意識で辛うじてわかったのは、腹部に男の足がめり込んでいたのと、凄まじい速度で自分が落下しているということだけだった。
そして十五分後に、俺は天空に聳え立つ巨大なビルの前に立っていた。
「おい、さ、さくら!」
妙に上ずった声でさくらを呼ぶ。
「あーら、どうしたのテツ君」
さくらはやけに上機嫌だ。
「き、聞いてないぞ。クイーンズタワーに来るなんて!」
なんで昨日、さくらが俺を誘ったのか納得が言った。
「え、どうして? 言ってなかったっけ。旅行代理店があるのは五十五階だって」
「ひいっ! なんでそんな辺鄙なとこに店を構えるんだよ」
クイーンズタワー。地上六十階建て、悪魔の建造物。かつて神の怒りを買ったバベルの塔を思わせるそこは、愚かな人間達が総合商業施設として利用している。
「なにびびってんのよ。ただの高層ビルじゃない」
高層…。その言葉に頭がくらくらした。
そう、さくらは知っているのだ。俺が高所恐怖症だと言うことを…。
「あれー、もしかしてテツヤちゃんはこわいんでちゅか〜?」
思いっきりバカにされている。
あれは一年前。空手部で遊園地に行った(恐ろしく周りから浮いていた)時のこと。
コーヒーカップやメリーゴーランドばかり乗っていた俺を、さくらが観覧車に乗せ、泡を噴いて気絶するという悪夢のような事件が起きた。
それ以来、さくらには重大な弱みを握られている。ついでに、その時に握られた弱みはもう一つあるのだが、それはまた別の機会に…。
「ば、ばっか、怖がってなんかないサ!」
思い切り汗を掻きながらも、ライバルのキョウの前では弱みを見せられない。
「はは、そんなことわかってるよ。早く行こうよ、もう七時だしさ」
空気の読めないキョウは、明らかにおかしい俺の様子に気付かないようだ。それがありがたいような、迷惑なような。
「そそ、早く行こ。テツくん」
ぐいぐいとさくらが強引に俺を引っ張って中へ入っていく。なぜだか、物凄い力だった。
「イヤだ、イヤだあああ!」
そんな俺の悲鳴が夜空に虚しく響いた。