粉雪〜君のためにできること〜-2
2 「ねぇ、つきあっちゃおっか」
彼女が笑いながら言った。
自分が辛いときにわざと明るく振る舞う、彼女の悪い癖。
強がっては自滅して、よろよろになりながら僕を頼る。
それは冬の始まりとともに、回数が増えていた。
彼と別れた季節が巡ってきて、彼女は一年前に逆戻りしていた。
十分にわかっていた。いつも彼女を見ているから。
だからこそ、僕の中で醜い感情が膨らみ出した。
「何言ってんだよ…」
語尾の力が抜けた。
「案外うまくいくと思うんだよねー」
じゃあこっちを見ろよ。俺を見て言えよ。
「気兼ねしなくていいっていうかさー…」
「いいかげんにしろっ!寂しいなら九州に行けばいいだろ」
「…」
彼女がひどく傷ついた顔をした。
溢れだした感情は『嫉妬』の渦になった。
一年会わずにいながら、彼女を傷つける彼。
一年そばにいながら、僕をみない彼女。
おびえた彼女の視線と合う。
「俺の中に前の男を見てるのか?」
はじけたように彼女が走り去った。
一人取り残されて、やってくる後悔の波。
そんなことが言いたかったんじゃない。
僕だけを、見てくれ。
でも言わない。そんなことは無理だから。
どうせ彼女は明日の朝、腫れた目のすっきりした顔で、僕に言うんだ。
「ごめんなさい。昨日はどうかしてた」
笑わないでくれ。どうかしてたから言ったのだと、謝らないでくれ。
僕は何も言うことができなくて、目を伏せて彼女の横を通り過ぎた。
僕なら君を絶対に傷つけないと思っていた。でも、違った。
憎らしいはずの彼の気持ちが、痛いほどわかるのは、何故だ。
僕も、彼も、彼女を愛したからだった。