投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

粉雪
【大人 恋愛小説】

粉雪の最初へ 粉雪 4 粉雪 6 粉雪の最後へ

粉雪〜君のためにできること〜-1


雪のせいなんだ─。
みんながしみじみと外を眺める中、僕は彼女の横顔を見ていた。
最近様子が変だったのは、冬だからなのかと思っていた。
でも違った。雪のせいだったんだ。
「だから寒かったんだねー」
急に声をかけられて、慌てて笑顔をつくっている。
「そうですね」
相槌をうって、パソコンと向き合う。しかし、キーを打つ音は聞こえてこない。
「なんで雪なんて降るのよ」
誰かの言葉が、彼女の言葉に聞こえた。
それが合図のように、彼女は事務所をでていった。
僕の視界には、あとからあとから落ちてくる雪だけが残った。
やがて音を失っていた室内が、普段の忙しさを取り戻す。
聞きなれた騒音から逃げるようにして、僕も席をたった。
しばらく社内を歩き、人目を避けた裏の駐車場で、彼女をみつけた。
コートも着ないで佇む姿は、暖房が効きすぎた室内まで、吐く息を白くさせる。
彼女にだけ聞こえる冬の足音。ここにいない誰かを探している。
そんなやつ、くるわけないだろ。でかかった言葉を飲み込む。
僕じゃだめなのか?言える訳のないセリフ。
好きだとわかったときから覚悟していたこと。
僕は彼女の一番になれない。



「藤村くんって菜穂のこと好きなの?」
半年前の飲み会の席で、同期の平谷さんにきかれた。
「なんで急に?」
僕は慌てるわけでも、否定するわけでもなく訪ねた。
単純に不思議だった。どうして平谷さんがそう思ったのか。
「んー…なんていうかね、菜穂を見ているとき、見守ってるって感じがするの」
「ふーん…」
的を得た喩えに、妙に感心した。
「で?どうなの?」
「さあ…?」
「かわいくなーい!せっかく相談に乗ってあげようと思ったのに」
白とも黒ともつかない回答に、平谷さんは不満げだった。
僕は軽く笑って、ビールに手を伸ばす。
実際、彼女のことが好きなのか、僕自身もつかめていなかった。
プライベートなことも話すし、二人で食事に行くこともある。
しかし、一緒にいる時間の長さがそうさせているだけかとも思う。
彼女は前の恋人との別れを今もひきずっていて、時折忘れられないと涙をこぼした。
僕にも、結婚まで約束していた彼女がいた。
ある日別れがやってきて、それから恋することをさぼっている。
『愛情』よりも『友情』。『友情』と言うよりは『同情』。
そうだと思っていた。


粉雪の最初へ 粉雪 4 粉雪 6 粉雪の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前