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伊藤美弥の悩み 〜受難〜
【学園物 官能小説】

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伊藤美弥の悩み 〜初恋〜-3

「餅肌やな……ん?」
 露になった白い肌の上でキラリと光るモノに、呟いた紘平の目がいく。
 それは、プラチナの台に小粒のサファイアとダイヤモンドをあしらったペンダントのネックレス。
 ――誕生日にプレゼントされたリングだが、さすがに普段から身に着けている訳にはいかなかった。
 そこで龍之介は似通ったデザインのネックレスを選び、リングとペアにして美弥に贈ったのである。
 それから美弥は毎日、家にいる時以外は制服でも私服でも服の下にはこのネックレスを着けていた。
「龍やんのプレゼントか……」
 苦々しげに呟くと、紘平はネックレスのペンダントに顔を近付ける。
「今ここに龍やんはおらんのやで?こんなん、なーんの意味もあらへん」

 かりっ

「!」
 紘平は、ネックレスのペンダントをかじった。
 何よりも大切なものを穢された気がして、美弥は目を見開く。
 紘平のこの行動が、美弥の体に抵抗する気力を奮い起こさせた。
「高遠君」
 奇妙に冷静な声が、紘平に待ったをかける。
「最高でしょうね。五年ぶりに再会した幼馴染みを犯す気分は」
「っ……!」
 美弥は奇妙なまでに冷めた目で、紘平を見た。
「私とあなたの恋愛関係は、あの時終わった。今はお互い、新しい恋人がいる。なのにどうして私に執着して、瀬里奈をないがしろにしているの?」
 美貌の恋人を思い出し、紘平は喉を詰まらせる。
 物凄い美貌に似合わず性格は意外とぞんざいで、オープンで、付き合いやすくて、守りたいと思わせてくれる女の子。
「……瀬里奈を」
 しばらくして、紘平は呟くように言った。
「瀬里奈をないがしろにしてる訳やない。美弥……俺は俺の五年分の想いを、ぶつけとるだけや」
「嫌よ」
 にべもなく、美弥は断る。
「私の体に触れていいのは、私自身と龍之介だけ。他の人に触って欲しくなんかないわ」


 珍しくも閉店時間前に全ての客が食事を終えて帰ったため、竜彦は久方ぶりに早い時間に開放された。
 特にやる事もないし明日は店の定休日だしと浮かれた気分で、繁華街から住宅街まで人を搬送してきた電車から降りる。
 電車を降りた竜彦は駅を出ると、ゆっくりぶらぶらのんびりといった足取りで自宅まで歩いていた。
 途中気が向いたので、そぞろ歩きの気分で近所の公園に立ち寄る。
 そこに、彼女はいた。
「美弥ちゃん!?」
 呼び声に反応して、ベンチに座っている思い詰めた表情をした少女が、顔を上げる。
 その目がまっすぐに、竜彦の顔を見た。
 自他共に認める、兄弟揃って父親似な顔を。
「竜彦……さ……」
 美弥の顔が、くしゃっと歪んだ。
 そのまま、激しくしゃくり上げ始める。
 美弥の涙を見て龍之介なら慌てる所だが、ここにいるのは竜彦だ。
 歩み寄って美弥の横に腰掛けると、何も言わずに少女を抱き締める。
 抱いた肢体の冷たさに、竜彦は驚いた。
 いったいどれだけの時間屋外にいれば、これ程体を冷やしてしまうのだろう。
「とりあえず、家においで。ここにいたら、風邪を引きそうだ」
 美弥は泣きながら、首を横に振った。
「……やっ……!」
「……龍之介と、喧嘩でもしたの?」
 美弥は、ますます激しく首を振る。
「違うっ……龍之介にっ……会いたいけどっ……会いたくないっ……!」
 それでこの公園にいたのかと、竜彦は納得した。
 しかし何でまたこんなに泣きじゃくっているのかと頭の中が疑問符で満たされるが、それを聞き出すのは龍之介の役目だろう。
「とにかく、家においで。龍之介に会いたくなければ、会わせないから。ただ君が風邪でも引いたら、一大事だ」


 竜彦に伴われて家に来た美弥を見て、龍之介は目が飛び出る程に驚いた。
「とりあえず、風呂沸かして美弥ちゃんを入らせて。体が冷えてる」
 龍之介が何か言うより早く、竜彦は指示を出す。
 龍之介は何か言いかけたが諦めて頷き、風呂の湯を沸かしに行く。
「美弥ちゃん。今、何か作るから。それ飲んで、体あっためて」
 竜彦は毛布に包んだ美弥をリビングに落ち着かせると、台所に行って美弥に飲ませる物を作った。
 砂糖でエネルギー、卵と牛乳で栄養、熱くして体を温める。
 体の温め促進と風味付けを兼ねたブランデーを垂らしたミルクセーキを、竜彦は美弥に飲ませた。
「ふ……」
 カップ半分程のミルクセーキを飲み干した美弥の頬に赤みが差した頃を見計らい、横に座った竜彦は尋ねる。
「落ち着いた?」
 美弥はそれに答えず、竜彦も回答を望まなかった。
 代わりに美弥の頭を、よしよしと言わんばかりに撫でる。
「……聞かないん、ですか?」
 熱いカップを包み込むようにして持ちながら、ぽつりと美弥は呟いた。
「聞いて欲しいの?」
 竜彦は優しい眼差しで、弟の彼女を見つめている。
「聞いて欲しいなら、いくらだって聞いてあげる。だけど聞くのに適してるのは、俺よりも事情を知ってる弟じゃないのかな?」
 竜彦は横目を走らせ、くすくす笑った。


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