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傷痕は誓いの枷〜傷痕side chika〜
【悲恋 恋愛小説】

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傷痕は誓いの枷〜傷痕side chika〜-1

「千歌」

あの声で呼ばれれば、この体は私の自由から抜け出し、彼に引き寄せられてしまう。


「流く、ん…」
「帰るよ」
にっこりと笑いながら、流くんが掴む私の腕はギリギリ今にも折れそうなくらいで、痛い。

「帰ろう、な?」
「……………うん」

従う意思をだせば、流くんの手は力はぬけたけど離れはしなかった。



流くんは、私の彼氏で……正しく言えば、フィアンセだ。

流くんと私の両親は仲がよく、私たちも共によく遊んだ。
子猫がじゃれるように、無邪気に笑い合いながら。
ずっとずっと、そんな風に変わらないと信じてた。




あれは、だから事故だった。
事故だったのに。


私の背には、ざっくりとひび割れたように醜い傷痕がある。
ついたばかりのころは痛くてたまらなくても、痕になれば気にならなくなった。
背など自分では見ようとしなければ見えないし、隠すまでもなく人目につかない場所だったから。

傷痕自体は、なんら私は気にしなかったし、親も表だって気にしたりしなかった。



ただ、流くんとの関係ががらりと変わっただけで。

両親たちが冗談のように『千歌ちゃんをキズモノにしたんだから流くんがお嫁さんにもらって』なんて……言ったのがキッカケだったか、今じゃもうよくわからない。


ただ流くんは『千歌は、僕がお嫁にもらう』って…だから、許嫁。
だから、恋人。だから…もうすぐ結婚する。

始めは口約束だって、真に受けてなかった。

でもあれ以来、流くんは変わってしまった。



玄関を開けてドアが閉まるなり手を引かれた。
「誰、あいつら」
「なんも連絡ないまま無断でどこ行く気だったわけ?」
ぎらぎら睨みながら言うと、フッと目の光が揺らいで弱々しく吐き出した。

「俺のこと、嫌になった…?」
ぎゅうっと痛いくらい抱き締められる。
あの声色に胸も締め付けられる。
そんなにきつく抱き締めなくたって、私が流くんから逃げるわけないのに。

でもそう言ってあげれたことはない。
首を小さく横に振って、口を開こうとすれば流くんは口づけてくるから。


流くんとのキスは、キスなんて甘い響きじゃない『貪る』みたいな口づけだ。
私のすべてを呑み込んで味わって咀嚼して、食べられてるみたいな気分になる。


流くんは昔と変わらない笑顔で、おかしいくらいの執着と独占欲で、私をギリギリと束縛してる。


ふいに違和感を感じて慌てた。背中に流くんの手が滑ったからだ。


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