エッグスタンドU-3
「オマエは、どうなりたいんだよ?」
沙那は、オレの言葉に小首を傾げると、
「楽しく、明るく生きて、静かに死ねたらいいな」
ごく普通の答え。オレは、さらに突っ込んで訊ねた。
「だったら、そのための努力も必要なんじゃねえのか?」
何気なく訊いたつもりだった。
「…薫」
「なんだ?」
「薫は、やっぱり私とは違うよ」
そう語る哀しそうな顔を見て、また無性に腹が立った。
「何が違うっつうんだ!」
オレは、怒りに任せて沙那の手首を掴んだ。
「…つ!」
沙那は顔を歪ませた。オレは手首を捻って見た。長袖のシャツの裾は薄っすらと赤く染まっていた。
目の前にいるコイツは、いたずらが見つかった子供みたいに、気まずそうな顔でオレを見ている。
「…バカ?」
オレは、わざとらしく深いため息を吐いた。
「だって…こんなに早く来るとは思わなかったし…」
「見つかるのがイヤなら、せめて絆創膏くらい貼れよ」
「エッ?そっちの方なの?」
今さら、それを言ってコイツが利くくらいなら、最初からこんなバカげた事やらないだろ。
「オレを呼んでおいて、オレが現れる直前まで切ってたのか?」
「だって〜…薫がもう少し“あの人”と押し問答やってくれるかと思ったら、あっという間に来ちゃうんだもん」
「それで、絆創膏を貼る余裕もないと?」
「まさか不法侵入犯してまで来るとはねえー」
「そいつは悪かったな。期待に応えられずに…」
オレのイヤ味をコイツは無視する。
「私ね〜、本当に痛くないの。だから気にしないで」
沙那は薄い笑顔を絶やさない。その奥底にある、激しい感情を覆う仮面のように。
「痛くない訳ねえだろ。顔歪めてたくせに」
オレは、部屋の窓を開けて沙那の腕を掴む。
「とりあえず、オレん家に行って治療だ」
「こっから行くの?」
「玄関から出て“あの人”と鉢合わせになりたいか?」
「……」
「行くぞ」
「ん…」
窓から沙那を連れ出すと、オレは数十メートル離れた自宅へと向かった。
…「エッグスタンド」?完…