『LIFE LINE』後編-14
「行ってきます」
僕は荷物を片手にそのまま玄関に向かう。
食欲は失せ、気持ちばかりが苛立っていた。
「圭一」
靴を履き、ドアノブに手をかけたところで呼び止められた。
「今日は早く帰れ。お前に話がある」
「話って?」
「大事な事だ」
父はそれ以上、なにも語ろうとはしなかった。
だから僕も、真面目に聞く気などなかった。
今更、何を話すというのだろう。
話題など数えるほどもない僕達の間に。
父はすでに自分の筋道を立てていて、僕はそれに従う振りをしながらできるだけそのレールから外れることだけを考えている。
思いと思いの平行線。
思春期の高校生の悩みにしては、無難すぎて笑えた。
授業が終わり、鞄にノートを詰め込んで僕は教室を出た。
図書室で時間を潰し、読んだことのないような本を片っ端から手に取り机に並べていった。
偉人伝、エッセイ、自己啓発書、スポーツ選手の取材録……。どれも似たようなことばかり書いているせいか、途中で飽きてしまった。
二時間ほど居座って、外に出る。
焼却場の脇を通り過ぎた時、体育館の扉が開いてることに気が付いた。
中を覗くと、誰もいないコートに片づけ忘れたボールが一つ転がっていた。
シューズに履き替え、僕はコートに上がった。
二十五メートル四方の床全体には、正確にラインが引かれている。
壁にはミーティング用のホワイトボードが立てかけられており、黒いマジックで今日の練習メニューが書き出されていた。
ゴール前を抜け、フリースローラインまで歩き落ちていたボールを拾う。
ざらざらとした感触が掌に懐かしかった。
ダム、ダダム。
僕は両腕を肩の高さまで持って行き構えをとると、静かに呼吸を整えた。
……シュート。
ボールは放物線を描き、真っ直ぐリングに向かう。
円の中心を少し外れて、そのまま後ろのボードに当たった。
ガシャン、という音が無人の体育館に響く。
もう一度。
ボールを投げる。
ハズれた。
更にもう一度。
今度はランニングシュート。
床が擦れ、体育館特有の靴擦れの音が鳴る。
何回も何回も挑戦し、感触を取り戻すように運動量を上げていく。
気がつくと、ハーフコートを走り回り、ただがむしゃらに駆けていた。
そうやって、息の続く限界まで足掻いて。
僕の脚は驚くほど自然に力尽き、そのまま後ろに倒れ大の字に寝そべった。