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『LIFE LINE』
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『LIFE LINE』後編-13

風が、流れ出した。

風は僕の体を突き抜けて、彼女の白いワンピースをはためかせた。

肩口から胸にかけて、大きく切り裂いたような傷跡が顔を出した。
世界が反転したような衝撃を、僕は受けた。

少女は傷を両手で覆い隠し、膝を崩して震えていた。

僕は恐る恐る、彼女に近づく。あと少しで、触れてしまいそうになる直前の距離になって、足が止まった。

……何故僕は、そこで立ち止まってしまったのだろう。
見えない壁が目の前を遮っているのか。
入ってはいけないテリトリーが、僕を拒んでいるのか。

いや、違う。

無意識に、僕は自分から足を止めていた。
手を伸ばせば届くはずの距離が、永遠に感じられた。

やがて立ち上がった少女は、膝にかかった砂を払い落としてその場を離れた。

ゆっくりと離れていく背中に、声を掛けることすらできなかった。
その勇気がなかった僕は、ただ遠巻きに去り行く彼女を眺めているのが精一杯だった。

やがて……

季節が変わり、遠い未来がやってきても……この結末は変わらない。
僕が変わらなければ、何の意味もないのだろう。




カーテンから光が差し込み目が覚める。

微睡んでいた目蓋が徐々に覚醒して、意識ははっきりと浮上する。

見慣れた天井が、そこにあった。

首を巡らして周りを見渡すと、据え置きの台車の上に置かれた丸時計が朝の訪れを告げていた。
しばらくぼんやりとした後、自分のベッドから起き上がる。
一階の居間から、なにやら話し声のようなものが聞こえた。

「…………」

朝、家にいるのは僕と明菜の二人きりだ。
母ではない。
心が急に重たくなった。

制服に着替えて階段を降りていく。居間のソファに座って、新聞を広げていたのは、やはり父だった。

「……圭一か?」

経済欄を眺めながら、背後に立った僕を振り返らずに父は言った。

「昨夜は随分遅かったらしいな。何をしてたんだ?」

「と、友達の家で勉強してたんだって。昨日話したでしょ」

台所で卵焼きを焼いていた明菜が喉から絞り出すような声を出した。
父さんは目線を上げて、新聞を閉じるとしばらく考え込むような仕草を見せ、

「そうか。それならいいんだ」

と言って再び新聞に目を落とした。
ごく自然に。
当たり前のように。
明菜は、おびえきった様子で黙ったまま僕らを静観していた。


父さん……。

アンタは、どれだけ僕に関心がないんだ。


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