『LIFE LINE』後編-12
「そんな時期があったのかどうかさえ、もう忘れちゃいましたよ」
「そう……」
冷え切っているのね、と先生は呟き、静かに眼を伏せた。
雪のような白い頬に、微かに赤みが差している。
いつも虚ろだった表情とは違う、隠された一面のようなものが見え隠れした。
「成瀬くん。あなたがどんなに否定しても、血の繋がりは決して消せるものじゃないわ」
「…………」
「それは誰にでもあって、なくてはならないのよ。きっとみんな、本当は、絶えずそれを求めているのに」
「先生も……ですか?」
と僕は聞いた。
先生は少しの淀みもなく、はっきりと答えた。
「そうよ」
頬にかかる風が、彼女の髪を揺らした。
それはなぜだか、先生をそのままどこかへ連れ去ってしまいそうな気がして、心がざわついた。
僕は先生の目を見つめた。
真っ黒な深みを帯びた、綺麗な瞳だった。
でも、周りが暗すぎて、よく見えなくて。
先生が何を考えているのか。
何も分からずに、僕は無言で見ているしかなかった。
そして、冷たい息を吐き出すように、先生はゆっくりと口を開いた。
「私は父を、愛しているの」
少女が一人、泣いていた。
誰もいない空の下、少女はたった一人で泣いていた。
いや、その表現は、少し違う。少女は涙ぐんでいるわけでも、声を枯らして叫んでいるわけでもなかった。
でも、その子は泣いていた。
その佇まいに、物言わぬ表情に悲しげな瞳が宿っていたからだ。
どうして泣いているのか。
彼女は一体、どこからやってきたのか。
わからない。
わからないけど……。
その子はきっと、一人ぼっちなのだ。
僕と同じで、誰にも理解されずに、不器用に生きてきたのだ。どんなに高く叫んでも、どんなに強く願っても、決して届かないことを彼女は知ってる。
だから彼女は、声を押し殺して泣いているのだ。