桜が咲く頃〜過去〜-1
ここは大笑(おおえ)。
沢山の人が集まる街。
この国の中心部。
鈴(りん)は、ふと思った。
鈴は小柄で、手足は細いのに剣術は強い。
いつも男物の服を着て、自分のことを、俺と呼ぶが、女である。
ちなみに鈴とは、以前仕えるていた主が付けた名であり、今は矮助(あいすけ)に仕えるいる。
矮助とは、この国の中心人物、福永家に古くから仕える名家、山村家の次期当主である。
ある日矮助は鈴が女だということを知る。
その後鈴は、風邪をひいて寝込んでしまった。
そんな鈴を看病していたのは矮助。
鈴はそのことに気付き、はじめは警戒していたが、次第に心を開いていく。
矮助の看病のかいあって鈴は元気になり、屋敷を出て行くと言ったとき、矮助は鈴の看病代(宿泊代、食事代、薬代等々)満金30枚を請求した。
鈴は、一度は憤慨したものの、世話になったのは事実、と払うことに決めたとき、財布がないのに気付く。
払えないのを知った矮助は、1日満金1枚で鈴を雇おうと提案をする。
こうして鈴は、矮助の護衛として働くことになった。
ある日、鈴は矮助に頼み事をされる。
なんでも、矮助がある子から告白されて、好きな人がいると言ったら、その好きな人と一緒に祭りに来て欲しいと言われたらしい。
それなので、女物の服を着て、一緒に祭りに行って欲しいと言うのだ。
しぶしぶ、その頼み事を聞いた鈴。
二人は祭りに着いて早々、離ればなれになってしまう。
そして、鈴は人気のないところで、男数名に囲まれてしまった。
そこへ助けに現れたのは矮助。
鈴は、主である矮助を守るべきはずの自分が、逆に矮助に助けられたことを悔いて
『罰として俺を殴れ』
と言った。
すると矮助は、鈴にキスをした。
驚く鈴に、矮助は
『好きだ』
と告げた。
初めは信じられなかった鈴だが、矮助の真剣さ優しさに触れ、ふと思った。
(矮助なら、全てを受け止めてくれるかもしれない…)
そう思えた…
(知って欲しい。
自分のこと)
好きな人に黙っていたくなかった。
(自分の全てを知って、受け止めてくれたら…)
鈴は矮助からそっと離れ、ゆっくりと話し出した。
自分を好きだと言ってくれた矮助に、全てを知って欲しくて…
受け止めて欲しくて…
全てを聞いて、それでも好きでいて欲しいと、願ってしまった…
甘えてしまった…
矮助なら、っと…