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【純愛 恋愛小説】

蛍の最初へ 蛍 2 蛍 4 蛍の最後へ

-3

 ふと、私は少し昔のことを思い出した。学生だった私たち。夏の初め、大学の帰り道、蛍を捕まえた彼が水をすくうように形作った指の囲いから、しずくみたいな光を見せてくれた。
近寄って、手の中を覗き込もうとする私。それを止める彼。何故見せてくれないのだと、私はほおを膨らませる。全部見せたら、絶対がっかりするだろ、と彼が笑う蛍はさ、この光だけ見ていたほうがいいんだ、こいつには失礼な話だけどな。そう言っていた。
その時、私はやっぱり怒ったのだけど、今になって、その言葉の意味を痛感した。美しい光を放つからといって、その虫までが美しいとは限らないのだ。そう、現実の理想がそうであるように。
彼の手の中にあった光は、やがてふわふわと宙を飛び、夜の闇の中へ消えてしまった。けれど今、私が握り締めている光はどこへも行かない。
私は洟をすすりながら、ストラップを彼の目の前に持ち上げ、
「ありがと」
 となんとか頑張って笑ったって見せた。
 頑張れる。そう思った。

 

end


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