「interview」-7
わたしはあの日、保安課長からKの夢について聞いてしまいました。悪夢はその晩から始まっておりまして。もちろん、最初は半信半疑でしたが試しに先日、保安課長の奥様にもKの話をしてみたんです。するとどうでしょう。奥様までが、悪夢にうなされるようになったのです。Kのことなど何もご存じないはずなのに。死刑場のことなど何もご存じないはずなのに。翌日、奥様から連絡をいただいた時に、はっきり確信しました。
あの悪夢は、誰かに伝えることにより、伝染すると。……そうですね。きっと奥様もわたしに続いて命を落とすことになるでしょう。最低とでもなんとでも罵っていただいて結構です。
ですが、よろしいんですか?
よく考えていただきたい。
あなたも、わたしの話を聞いてしまったのですよ。たった今。しかも録音までして……。泣かないでください。泣いたところで、もう全てが手遅れなのですから。さあ、このハンカチで涙を拭いて。あなたがこれからするべきことは、たったひとつですよ。せっかく取材もしたのですから。それを無にしてはもったいない。さあ、ほら、メニューをどうぞ。なにか暖かいものでも注文しましょう。ご馳走しますから。
もう、泣かないで。……笑って。ほら、こうやって、口を大きく開けて。奥歯が見えるようにしながら。
ははは……、はははははははははははは……。
は……はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは……。ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは……。
編集長は、半ば浮かしていた腰を力なく椅子に沈めると、目の前で声をあげて笑う部下を恐怖のまなざしで見上げた。まだ若いはずの彼女の服装は、徹夜続きのようによれており、髪の毛もしばらく洗っていないことは一目瞭然であった。彼女が身動きする度に、嫌な臭いが男の鼻先をかすめていった。取材したインタビューを編集長に聞いていただきたいと言われたのが、今から一時間ほど前のことになる。聞かせてみろ、と快く返事をしてしまったことに、男は心底後悔した。今のインタビューが真実なら、大変なことになる。世間にも。そして自分自身にとっても。半開きになった口から、男は声を押し出すようにしながら、取材してから何日経つのかを部下に訊いた。わずかな沈黙の後、彼女は目を細め、ひび割れた唇を歪めながら、答えた。
「今日で、七日目です」
end