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「interview」
【ホラー その他小説】

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「interview」-2

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 唐突な質問ですが、あなたは今の日本の死刑執行がどのように行われているかご存知でしょうか。……はい。その通り。首吊り……つまり絞首刑です。映画でも死刑シーンが扱われたりするので、だいたいは想像できるはずです。ですが、死刑執行の詳しいところまではご存じないかと。……ああ、いえ。十三階段ではありません。そういえば、そんな映画もありましたからね。現在、我々の国では地下絞架式という方式をとっております。つまり高台に上って首を吊るのではなく、平坦なところに立ち、足場の床がはずれる事により下へ落下し首に巻かれた縄が絞まるというわけです。……驚きましたか。まあ、内容が内容なだけになかなか情報がおもてに出にくいですからね。
 ……はい。ええ。そうです。事前に電話でお話させていただいたように、わたしはそこの刑務官をやっておりました。いえ、そうではありません。刑務官というのは複数おりますから、その中の一人ということです。いえ、一人でも十分こなせる役割なのですが。いや、無理かもしれません。やはり複数でないと。とてもやりきれるものじゃない。いやいや、業務自体は難しくないのです。ただ、スイッチを押せばいいだけの話ですから。……そうです。スイッチです。……そうです。はい。それを押したと同時に、床は開き死刑囚は落下します。つまり、簡単に言うならば彼らの命を奪う役割なのです。ですが、それを一人で行ってしまうと、己がしてしまった重圧に耐え切れないということで、複数の刑務官でスイッチを同時に押すことになっているのです。想像してみてください。あなたはがわたしの立場なら、どんな気持ちになりますか。……そうでしょう。わたしも、いえ、誰しも同じような気持ちになるはずです。
仕事と割り切るには、あまりに重いのです。それでも、これまでの私は死刑が執り行われる度に、なんとか自分を納得させながらやるべきことをやってきました。家族を養っていからなければならない身ですし、あなたのように若い方ならともかく、わたしのような中年が再就職など出来るはずもない。ならば進むべき道はひとつしかないでしょう。……罪悪感ですか。ええ。もちろんありましたよ。罪悪感も、後悔も。最初のうちは食事をとれず嘔吐を繰り返したりもしたものです。ですが、それらも自分が生きていくことと比べたら取るに足らないことだったのでしょう。だからこそ、この十数年間続けてこれたのですから。きっと、あの男に出会わなければ、今でも続けていたことでしょう。
 そういえば、まだ話していませんでしたね。
 ええ。そうです。先月、退職いたしました。いえ、そうではありません。体のほうは健康そのものです。……いや、どうかな。すみません。こんな言い方だと混乱してしまいますね。ただ、わたしにも良く分からないのです。まあ、あなたに全てを話し終わることにはきっとよくなっているはずなんですが。はは。そうですね。重荷がおりるという意味で。
 話を本題に戻しますが、あなたはKという男をご存知でしょうか。……失礼しました。記者さんですから、当たり前ですよね。そうです。少し前のことになりますが、あの事件の容疑者です。あれは、凄惨な殺人事件でした。自分を慕って近づく女性三人を殺害し、ひとりは手や足、頭などをバラバラに、もう一人は自宅の庭で生き埋めにし、当時恋人だった女性は殺してバラバラにした挙句、その方の死体を調理し食したり、デスマスクを標本用のピンを使って自室の壁に貼り付けたりしていたそうです。もはや普通の精神状態ではなかったのでしょう。そうでないと、あんな常識を逸したような殺し方は出来ない。……はい。さっきわたしが言った、あの男とは、まさにそのKという人物です。……そうですね。確かに、彼はもうこの世にはおりません。死刑は執行されました。
 もう、予想はついていらっしゃるかもしれませんが。その刑が執行される際、わたしも立ち合っておりました。もちろん、刑務官として。
 死刑の執行は、極秘に行われます。家族もマスコミも、被害者の遺族も、死刑囚本人でさえ執行の朝にようやく知ることが出来るのです。以前は死刑囚には前日に伝えておりました。しかし、その晩に死刑囚が自殺したことから、今ではぎりぎりまで伝えるということはなくなったのです。


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