依頼者-2
二
孝弘が、怖そうな顔をしていたとき、一人の男があらわれた。
『どうしたんですか?そんな青い顔して。』
青い顔してる他人にいきなり喋りかけるか普通。何か不幸事かもしれないってのに。とか思いながらも、無視することはできなかったので、一応返事だけは返した。
『いや、何でもないですよ。』
『何でもないことは無いんじゃないんですか?そんな恐怖に怯えたような顔してたらこっちも気になりますよ。』
そこまで入ってくるか普通。と、またもいらついてしまった。こうなったら仕方がない。いっそのこと、全部話してこの人にも協力して貰おう。と、孝弘はこの男を上手く使おうとした。
『この本変なんですよ。ちょっと見てみて下さい。』
そう言って、相手の男に差し出した。
『んー、確かに普通じゃないよね。どこか違和感があるような。』
オマエも十分普通じゃねぇよ、と一つ呟いてから言った。
『最後も見てくださいよ。ね、意味深でしょ?』
『ああ、確かに。でもこれってさ、これ見た人は選ばれし者で、ここに名前が載るって意味じゃないの?』
もうここまできたらこいつも一緒だ、巻き込んでやる、と意気込んだ。
『おそらくそうだと思います。で、この前調べたんすよ、気になって。』
『そしたら?』
『そしたら、なんかここに載ってる人みんなが行方不明で、しかも、載ってる順番通りにいなくなってるんすよ。』
孝弘はどんな顔して、言葉無くすだろうか、とおもしろがっていた。しかし、
『そうなんですか、それは興味あるな。』
予想外だった。普通怖がるだろうそこは。ドンだけ物好きなんだよ。やっぱふつうじゃねぇわこいつ。とかいろいろ思った。
『でもどのみち、俺にも何かが起きるって事だよな。じゃあ、解決しない訳にもいかないな。』
解決するつもりなのかこの男は。と、驚いた。しかし、その後の言葉にもっと驚かされた。
『さあ!一緒に頑張ろっか!!』
正直、とても不安で心細かった孝弘には、凄く心強かった。何よりも、その言葉が欲しかったのかもしれない。誰かに助けて貰いたかった、救いの手をさしのべて欲しかった。そんな人が、今目の前にいる。それだけで嬉しかった。嬉しすぎて、涙も出そうになった。
『どう、するんですか?』
『まず、ここの人に聞いてみよう。』
男の人は、本を手にしてフロントに向かった。しかし、係りの人ともめているようだ。
数分もめた後、男は諦めて帰ってきた。
『どうしたんすか?』
『おかしいんだ、ここの図書館は。』
『何がですか?』
『この本は、ここの図書館にあったんだろ?』
『はい。』
『なのに、ここにはそんな本はありませんだって。』
一瞬耳を疑った。何を言ってんだと。冗談じゃないのか、とも思った。それが当たり前なのだろうけど。
『何言ってんすか?あり得ないでしょ、そんなこと。』
『わかってるよ。でも、無いものは無いのでってハッキリ言われてさ、それ以上言えなくなっちゃって。』
そんな事があるはずがない、と、当然受け入れられなかった。が、男が必死に説得したので、孝弘はとりあえずおとなしくした。
『あ、こんだけ話したのに、名前もまだだったね。僕は、氷蔭琢郎。』
ああ、そういえば、と孝弘も思った。
『俺は岡本孝弘です。』
そう言って、2人は軽く握手をした。
『この後、どうしますか?』
『そうだな、とりあえず今日は帰ろう。明日またここに来てくれ。』
『何時に?』
『そうだな、2時くらいはどう?』
『良いですよ。ああ、そうだ、明日彼女つれてきていいすか。』
『別に良いんじゃない?』
『分かりました、じゃあ明日。』
『うん、じゃあ。』
そう言って2人は分かれた。