『お宝は永久に眠る2』-1
トレジャーハンター。
それはクリスティナ王国では名の知れた咎人の総称。
世界中を駆け巡り、世界中の宝石、財宝に手を掛ける卑しき者達だ。
時には他者を殺めてまで獲物を得ようとする密林の猛獣よりも、荒野を飛び回る猛禽類よりも卑下た職業とされる。
特に厄介なのは、手続きを必要とする越境を無断で行い他国の国宝にまで手を出すこと。
もし隣国の財宝を盗み出した場合、隣国の領土にいる間はそちらの司法で裁かれる。しかし、ひとたび自国の領土に入れば隣国は手を出すことが出来ない。
そうなると、次に起こる問題は国際的な司法権。問題を起こしたトレジャーハンターの所属する国で咎人を捕らえて引き渡すか、もしくは国宝を取り返さなければ解決しない。もし国家間の交渉で司法権の受け渡しが決まらない場合、最悪で両国の戦争を引き起こす引き金となることも多々ある。
そして、ジェイドの目の前にメニール・レゲットというトレジャーハンターは、多数の国で国宝、秘宝、財宝諸々に手を掛けた大罪人なのだ。
これまでに奪い取った財宝の数は両手の指では数えられず、総額で三十億ジュリー――一般人の年収が十万から二十万ジュリーとして――を超える。いや、値段の付けられないものも含むので、無限大と数えても過言ではないだろう。また、彼女の名を有名にした逸話は幾つも残っている。
オーレス大陸西端に位置する民国パルーディアの最重要国宝を奪ったのは、ハンターとしても流石と言える。それだけに留まらず、健全なハンターならば手を出さない帝国ルビストへと立ち入り、武力最強と謡われた帝国軍の一個大隊を単身で全滅に追いやったとなれば、一年程度のルーキーでさえ王国全体で指名手配されるだけの大罪になりうる。
ならばなぜゆえ、王国の城下に住むメニールが二年間もの間、捕らわれずに済んだのか。それは、彼女が『錬金魔術師協会』に所属する名うての錬金魔術師だからだ。
この世界には、幾つかの魔術師協会が存在する。メニールが所属する『錬金魔術師協会』もその一つで、彼女は若干二十四で称号――協会に大きな貢献、もしくは魔術師界における改変を果たした魔術師に与えられる名誉――として【赤鬼“バルザック”】の異名を受けた錬金魔術師なのである。
そのため、協会が全力でメニールの保護に当たり、王国側は彼女に手を出しかねている状態だった。所謂、メニールそのものが動く治外法権と言えよう。
メニール自身が協会を脱退、もしくは協会から除名されない限り捕まることはない。まあ、世界中から狙われているメニールが、協会という治外法権の外に出ることはないだろう。
そのハンターが今回狙うのは、前述した通りマブール砂漠に伝わる秘宝なわけだ。
「砂漠の民が長年に渡って隠し続け、守り続けてきた秘宝『サボティージュの揺り籠』か……。そんな名前の宝は一度も聞いたことがないからな、私でも全く見当がつかんよ」
再び砂海を歩き出したメニールが、委任状を見つめながら独白する。
「お前でも聞いたことのない宝物があるのか? そりゃ、まあ、世界は広いからなぁ。だが、そいつはお前を動かすための表向きの名目だからな」
「分かっている。正確には、『サボティージュの揺り籠』を奪いに来た民族および同業者による騒乱を治めること。信じられん話だな、こんな仕事をたった二人でやれと言う輩の考えが」
メニールが憤慨するのも分かる。
なにせ、トレジャーハンターとしての仕事は単なる建前であり、本当の理由はメニールが吐き捨てた内容にある。そして、そんな大仕事をジェイドとメニールの二人だけで行うよう指示してきたのだ。
ここマブール砂漠はどこの国領にも属していないため、クリスティナ王国が率先して占有権を主張しようとしている、というのが裏の事情だろう。
「もし私が断ったら、どうするつもりだったんだ?」
「その時は、俺一人でやるしかなかったってことだろ。まぁ、こんな条件を突き付けたらお前が動くことを見越して委任状なんて届けさせたんだろうけどよ」
メニールの問いに、ジェイドは肩を竦めておどけたように答えた。
一人で、と言うのは冗談にしても、少数精鋭に託すのは目に見えている。