私の存在証明B-1
本当は気づいてた、私に向けられた奏太の視線。
はじめは、同情の視線だと思っていた。
母親から存在を否定された、哀れで惨めな女。可哀想な奴だと、そんな思いの込められたものだと思っていた。
けれど、奏太の視線は暖かくて、まるで日溜まりの中にいるような錯覚に陥ってしまう。
奏太が見つめてくれるから、私は此処にいるんだと実感することが出来る。
いつからだろう?
私にとって奏太は「嫌いじゃない」存在になっていた。
――――
消毒液の匂いが鼻腔につく。
静まり返った廊下でただ一カ所だけが慌ただしく、足音を反響させる。
窓から見える救急車の赤色灯が、やけに視界に残って。
あぁ、そうだ。
私はこの光景を知っている。
「遥香ちゃんっ!」
俊博さんの焦った声が私の意識を浮上させた。
「俊博さん」
その後ろにはお母さん。
「今警察から連絡があったんだ」
「そう……ですか」
奏太と共に病院に運ばれて、どれくらい時間が経ったのだろう。
非力な私には為すすべもなく。廊下の長椅子に腰掛けて、奏太の無事をただ祈ることしか出来ない。
「飲酒運転の車に巻き込まれたって聞いたけど、遥香ちゃんは怪我は大丈夫かい?……それと奏太は?」
「……私は大丈夫です……奏太はあそこに」
俊博さんに返した言葉は、自分でも驚くほどに掠れていた。
緩やかに奏太の居場所を指で示すと、俊博さんは視線を移した。その先には、煌々と光る手術中のランプ。
「そうか」
俊博さんが、息を飲む音が聞こえた。
「ごめんなさい。私を庇って奏太が……ごめんなさい」
ごめんなさい、ごめんなさい。
何に謝っていいのかさえも分からない。けれど私は謝らずにはいられなかった。
「いやぁあああ!」
俯いたまま床を見つめていると、唐突に聞こえたのはお母さんの耳をつんざくような悲鳴。絶叫し、床に崩れたまま動かないお母さんに、俊博さんは慌てて駆け寄った。
「千夏さんっ!どうしたんだ」
「いやぁあ!」
荒い呼吸を繰り返し、真っ青な顔をしたお母さん。その背中をゆっくりとさすり、深呼吸を促す俊博さん。