投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

私の存在証明
【純愛 恋愛小説】

私の存在証明の最初へ 私の存在証明 11 私の存在証明 13 私の存在証明の最後へ

私の存在証明A-6

「それから……私を覚えていた頃のお母さん」

 目を瞑り、天を仰ぐ。今こいつの瞳には、色褪せることのない懐かしい日々が映っているのだろう。
 数秒程で目蓋を開け、俺に向き直った。

「好きっていう言葉が怖いの。言ってしまえば、その瞬間にそれが消えてしまいそうで」


「悪いけど俺、頑丈だから中々しぶといよ」

 大して筋肉のついていない胸を張る。
 俺の言葉にあいつは深呼吸を一つだけして。
「……奏太が好き」

 言い終わる瞬間、キスをした。
 触れるだけのキス。
 そして、二人で照れ笑い。

 唇に触れる柔らかい感触が、俺に教えてくれる。普段の無表情は造られたもので、本当は感情豊かにこいつは笑う。その姿はとてもいじらしくて、そして何よりも愛しい。

――そんな平田遥香という存在は此処にいる。



 それから俺達はゆっくりと帰路を辿った。


「親父が心配してるかもな」

「俊博さんって心配性だよね、前から?」

「前から。小さいガキじゃねーんだから、ほどほどに……ん?」

―――光が眩しい。

 それが車のヘッドライトだと気がついた時には、明らかに尋常ではない猛スピードで、車が迫っていた。

 このまま進めば進路方向は、紛れもなく俺達のいる歩道。心臓が早鐘を鳴らし、危険信号をだす。
 危ないと言葉がでる前に、体はすでにあいつをこの場所から押し出そうと動いていて――――



「奏太っ!!」

 あいつの絶叫と衝撃音はほぼ同時だった。

 今まで感じたことのない衝撃が襲う。
 浮く体。
 揺れる視界。


「かなた!かなた奏太っ!」

 ボロボロに涙を零しながらあいつが叫ぶのがブレる視界で見えた。
 無事で良かった。だから、泣かないでくれ。
 俺はあんたにそんな悲痛な表情をさせたくはないんだ。

 大丈夫

 そう言いたくて唇を開いても、出るのはかすれたただの呻き声。

 安心させたくても瞼が重くて、意識が薄れていく。

 最後に見えたのは、あいつの後悔の念の浮かんだ泣き顔。
 その表情は今にも『やっぱり』と言い出しそうで、違うと言いたかったのにそれは叶わないままに、俺の意識は深淵へと堕ちていった。




私の存在証明の最初へ 私の存在証明 11 私の存在証明 13 私の存在証明の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前