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私の存在証明
【純愛 恋愛小説】

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私の存在証明B-4

「遥香ちゃんっ!」

 ザバン、と大きな水飛沫が上がり私が川に落ちる音と、俊博さんの声は同時だった。




 酸素を求め藻掻き、必死に水面から顔を出す。

 うまく回らない思考回路によぎったのは、手に握られた指輪。
 両手で水を掻けば、もがいてでもすぐに岸辺に辿り着けるだろう。
 けれど、今手を開けば指輪は手から離れ沈んでしまう事になる。

 奏太の思いが、奥深く陽の当たらない水底に沈んでしまう事だけは、どうしても抗いたかった。

 水を吸った服が、重量を増す。
 一晩中探し物をしていた体は、体力なんてとっくに枯渇している。
 次第に動きが鈍くなるのを感じた。
 足掻いても、岸へは逆に遠くなり。

「お……かぁ……さん」

 息すらもうまく吸えない状態で、縋るように出た言葉はお母さん。

 そうだ。
 私が川を見るのが好きで、泳ぐのが嫌いな理由。
 小さい頃、此処で遊ぶのが好きだった。お父さんとお母さん、三人でお弁当を持って、ピクニック気分で遊ぶのがとても楽しかった。

 けれどある時、私は誤って足を滑らせてしまった。
 上手く泳げもしない私は、地に足のつかない恐怖に体を硬直させてただもがくしか出来なかった。

 そんな私を誰よりも、そう、お父さんよりも早く助けてくれたのはお母さんだった。「もう大丈夫だからね、遥香」お母さんはそう言い続け、涙の止まらない私をいつまでも抱き締めてくれた。

 遥香っ!
 はるかぁっ!!

 お母さんの声が聴こえる。とうとう私は昔の記憶に焦がれて、幻聴まで聴こえるようになってしまったのだろうか。



「遥香っ!」


――けれど、それは紛れもなく今のお母さんの声だった。


 昔の記憶でも、夢でもない、現在のお母さんが私の名を呼んだ。
 俊博さんの後ろにいたお母さんは、俊博さんよりも早く川に飛び込み。私の体を支えながら陸地へと私の体を押し上げた。

「遥香っ!水飲んでない?大丈夫?」

 酸素を求め、咳も止まらない。けれど私は震える唇を動かした。

「……お……かあ……さん?」

 私の途切れ途切れの言葉に、お母さんゆっくりと微笑んで。

「もう大丈夫だからね、遥香」

 お母さんの体が私を包み込む。
 それはとても懐かしい感触だった。
 私は泣いた。まるで迷子の子供のように。



 ねぇお母さん。
 私ね。お母さんに見つけて欲しくて、ずっとずっと待ってたんだよ。

 やっと私を見つけてくれたんだね。
―――


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