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私の存在証明
【純愛 恋愛小説】

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私の存在証明B-5

 その後のことを少しだけ話してみる。

 奏太は暫くの間は療養生活をし、体調が落ち着くとリハビリを始めた。

 それと同時期にお母さんも病院に通うようになり、今も通院は続いている。
「長い治療になります。焦らずゆっくりいきましょう」これはお医者さんの言葉。
 結局、お母さんが私を思い出したのはあの時だけで、その後また私を忘れていた頃のお母さんに戻ってしまった。
 あれはきっと昔と同じ事が起こったのがきっかけに、一瞬だけ思い出したのだろう。

 けれど、最近では病院帰りに、私が小さい頃好きだったケーキ屋のシュークリームを四つ。手土産に買って来てくれる。

 我が儘を言えば、早く思い出して欲しいけど。
 今はそれで充分。



 夏には俊博さんとお母さんは入籍して、私達は家族になった。
 そうして私達の生活が落ち着きを取り戻す頃には、季節は秋から冬へと落葉が街を彩る、肌寒い時期になっていた。



「おい、不良娘」

 夜も更け。意味もなく川辺で佇んでいると、不意に奏太の声が聞こえた。

「あれ、奏太」

「相変わらずの放浪癖だな。親父が心配して俺が駆り出されるんだからな」

「ごめんごめん。でも、よく居場所分かったね」

「発信機があるからな」

 ぶっきらぼうに言うけど。息を切らし、紅潮した頬と耳は、奏太が一生懸命に私を探してくれた事を教えてくれる。

「ほら、帰るぞ」

「うん」

 差し出された手を握る。ポケットに入っていた奏太の手は暖かくて、心まで暖かい気持ちになる。
 二人でくだらない話しをしながら帰路を辿った。

「そういや親父がニヤニヤして気持ち悪かった」

「私がお父さんって呼んだからかも。呼んでから挙動不審だったし」

「あーなるほどな。ま、酷くなったらまた飛び蹴りするか」

 飛び蹴り、という言葉に私達が恋人という関係になった、と俊博さんに報告した時の事を思い出す。

 俊博さんは目をまん丸にして、絶句し、暫くしてから。
『俺は遥香ちゃんがいつかお嫁に行くのかと思うと寂しかった』と泣き真似をして。
『けど相手が奏太なら、嫁ぎ先が我が家になるから問題無いな!そういや義姉弟でも結婚出来るか調べておくから安心しろ!でかした奏太!』
 そう高らかに語った直後、奏太に見事な飛び蹴りを食らっていた光景は、私の記憶に印象深く残っている。

 思わずふふ、と笑いを零してしまうと、奏太は怪訝な顔をした。


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