想いの輝く場所(後編)-3
「わーぉ、酷い顔!」
「…あの、自覚してるのでもうちょっとオブラートに包んで下さい」
体育担当の武藤先生が保健室に入るなり私の顔を見て笑う。
瞼が熱い。重い。視界が狭い。頭痛はするし、気分も最悪。吐き気がないだけまだマシか…。
「まあ、何があったかはわからないけどさ、元気出しなさいよ」
武藤先生は頭に響かないように、小さな声で言ってくれた。
「はい…、すみません」
ありがたいな、気遣ってくれて。
顔は酷くても、仕事だけはきちんとしなければ…。
そう自分を奮い立たせて、書類に取り掛かった。
昼休み。
購買にパンを買いに行った帰りに廊下を歩いていると、学校の中が妙に静かな気がする。
たった一学年がいないだけなのにこうも違うものなのかな。
まぁ、私の気持ちの問題かもしれないけれど。
冷たい空気が火照った瞼に気持ちいい。
瞼を閉じると、裏側に浮かぶ悠の顔。昨日の別れ際の怒ったような傷付いたような…。
「…謝らなきゃ」
このまま気まずいのは嫌。
きちんと会って話をしないと。
もう後悔するような恋はしないと決めたのだから――。
決意して悠の携帯に電話したものの、留守電に繋がってしまう。
バイトの時間…、それか自動車学校の授業中なのかも。
でも。
放課後になっても悠からの返事は一向になかった。
どうしよう、もしこのまま別れるなんてことになったら――。
考えがどんどん悪い方向へ向かう。
気付けば、悠のバイト先のカフェ近くまで来ていた。
カフェの大きな窓からは、温かい光がもれている。
中では悠が接客をしていた。
良かった、風邪とかはひいてなさそう。
思わず近づこうとして、戸田君が一緒にいるのがみえた。
そういえば、戸田君のお兄さんのお店って言ってたっけ…。
家には行けるわけないし。
「帰ろ…」
マフラーを巻き直して、イルミネーションの煌めく街路樹の下を歩き始めた。
結局…、私は待つだけしかできないんだ。悠が保健室に来てくれるのを待って、家に来てくれるのを待って。
そんなのでいいの…、私。
思わず大きなため息をついた。
別れるのは嫌と思う一方で、別れた方がいいのかもしれないと思う自分がいる。
それは前々から頭の片隅に常にあったこと。
悠を、大切だと思うからこそ。
秘密にしなきゃいけないような面倒な恋ではなくて、楽しんで恋して欲しいと。
今まで繋ぎとめてしまったのは私のワガママ。
悠に触れて貰える事が嬉しくて。
悠に甘い言葉を囁かれるだけで幸せで。
ずっと一緒にいたいと願う自分がいた。
…そんなの、重いでしょう…?
悠は周りが放っておかないもの。まだこれから沢山の恋が出来るはず。
そう考えたら私の想いは、6つ年下の悠にとっては足枷になるんじゃないかって思ったの――。