投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

人間ダーツ
【サイコ その他小説】

人間ダーツの最初へ 人間ダーツ 4 人間ダーツ 6 人間ダーツの最後へ

人間ダーツ-5

エピローグ


『愛美、行って来るよ。』
仏壇の前に正座していた貴之は、すっと立ち上がりコーヒーをすすった。カバンを手にとり、鍵をチャラチャラとならす。
“ガチャリ”と音がして扉の鍵は開けられた。扉を閉めた貴之は再びドアを見て、鍵を閉めた。カチャンと音がした瞬間、愛美の姿が頭に浮かんできた。
「貴之、忘れ物!何回目〜?」
「悪い悪い。」
と決まって鍵を閉めた後に愛美はいつも忘れ物を届けてくれた。
その光景が鮮明に映し出され、目に涙がたまる。あの時、あの一投が俺たちの運命を変えた。そして、自分が守ることのできなかった、彼女を巻き込んでしまったことに対しての罪悪感、後悔が残っていた。
あの時、最後のナイフは確実に愛美の胸を貫いていた。それでも愛美は少しだけ生きていた。その少しの時間、愛美は貴之にほほえみかけた。見えるかどうかは分からないが必死に貴之を見つめ、微笑み、息絶えた。
最後の微笑みが貴之には見えていた。だからこそ悲しい。彼女を巻き込むことになってしまうなんて。そして、最後に彼女に嘘をついてしまったことも。
あの集団テロ組織の真のリーダーは貴之だった。計画し、実行しようとした。しかし、人選びなんてどうでもよかった貴之は、部下にまかせてしまった。その結果、くじ引きで決めるという安易な方法で決めることになり、しかも、運悪く貴之と愛美が当たってしまったのだった。
貴之と愛美の名前を知っているのは主催者の真鍋徹だけであった。ちょうどくじ引きの時は徹がいなかったために、こういう結果を招いた。全ては真鍋の責任だと、本人が思いこみ自殺してしまった。
途中で真鍋は貴之の声で気付いた。それで、途中から中止の方向へ持っていこうと、皆にわざと外すように言ったのだった。しかし、最後の最後で最悪な奴が変な考えを持ってしまった。
そいつはどうしても人が殺したったらしく、このダーツに参加したのだという。それは一同全員同じだったが、その思いが暴走してしまったのだった。それで、無視して投げた事で愛美の死が早まった。
貴之は誰が一番悪いか何てどうでもよかった。それよりも、愛美の命が絶えた事に対しての悲しみが大きかった。このことを起こしたのは俺だ。と、責任をとろうと自殺しようとも考えたが怖くてできなかった。情けない、そう言う思いで一杯になった。
『愛美、ありがとうな。』
玄関先で微笑んだ貴之は、涙をぬぐい微笑み、その場を後にした。


人間ダーツの最初へ 人間ダーツ 4 人間ダーツ 6 人間ダーツの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前