私の存在証明A-3
「……ねぇ」
「なんだ?」
「俊博さんから聞いたけど、お母さん達まだ入籍してないんだってね」
漆黒の瞳は何を見つめているのか、ぼんやりと部屋の片隅に視線を向けている。
「……あぁ」
「私の所為だね」
それは明確な断言。
「違う……と思うぞ」
「ううん、私の所為だよ。私、お母さんの幸せの邪魔してる」
寂しげな表情。
不意に、あの時の『私はいない』と言い切ったあいつが脳裏に浮かんだ。
「なっ何?」
無意識の内に、俺の手はあいつの細腕を掴んでいた。
『掴まえていないと、あんたの存在が消えてしまいそうだったから』
禁句に近いその言葉はぐっと飲み込み、口から出ることはなかった。
――――
「かなたん、何見てんの?」
語尾に音符をつけそうな調子で、話し掛けてくる友人。思わず無視したくなる気持ちを抑え、げんなりとした表情で返す。
「その呼び方止めろ。男が男に対してキモい」
「それ発信機のカタログ?かなたん発信機買うんだ?探偵ごっこ?」
要望は見事に無視され、矢継ぎ早に質問されながら俺の手にある冊子に指を差された。
「探偵ごっこって何だよ……この発信機だとイメージが違うんだよな」
電器屋で貰ったカタログには厳つい形をした物や、日用品に機械を埋め込んだ物といった、いまいちピンと来ないものが載っていた。
「じゃあGPS携帯とかは?居場所わかるし連絡取れて便利だし」
「……うーん、というか、実際に発信機の機能が無くても構わないんだよな」
「かなたん矛盾してない?発信機なのに発信機能ナシ?」
「なんつーか、んー……お前はちゃんと此処にいるぞって証明したい。……そんな感じ」
言い淀む俺に、友人はにやりと効果音がつきそうな不適な笑みを浮かべ。