やっぱすっきゃねん!VA-6
「よかった〜!このままゼロだったらどうしようと思っちゃった」
生還した達也に、佳代は嬉しそうに拍手を送る。結局、8番バッターの和田は凡打に倒れて追加点はならなかった。
「さあっ!この回はビシッと抑えて、次も点取りに行くよ!」
佳代は、両手でメガホンを作って守備に散ろうとする選手達に檄を飛ばした。周りの控え選手達も次々と声があげた。
3回表。打順は再び5番を迎えた。達也は外角一辺倒でいこうとサインを出す。だが、直也は首を横に振った。
(なに考えてんだ?)
達也が何度サインを出そうが、直也は横に振った。
「タイムお願いします!」
主審にタイムを要求した達也は、ゆっくりとマウンドに近寄った。
「おまえ、どうしたんだ?」
問いかけに直也は胸の内を吐きだした。
「胸元に投げさせてくれ…」
「エッ?胸元って…」
「1球でいい。それでダメなら今日は諦める…」
すがるような直也の目。達也は無理だと思ったが、それ以上言えなかった。
「…分かった。1球だな」
「スマン…」
達也は納得してマウンドを去っていく。そんな姿に目をやる余裕も無い直也。ただ、ジッとボールを見つめていた。
プレイが再開された。達也のサインはインハイの真っ直ぐ。直也は頷いた。
上体を大きく捻り、踏み出す瞬間、一気に身体を開く。まるで、巻かれたゼンマイが解放されるように力をボールに込めた。
「ハァッ!」
一瞬の叫びとともに、放たれたボールは胸元へと喰い込む。
バッターは小さい体重移動からバットを振りだした。最初の打席同様、長打を確信して。
当たった瞬間、鈍い音がした。バッターは左手首を押さえて顔をしかめていた。
打球は直也の頭上にフラフラと上がった。ピッチャーフライだ。バッターはベンチに下がりながら時折、手を振った。
威力が戻った真っ直ぐが、より近目を攻めることでバットの根っこに当たっていた。
直也は後続の6、7番を三振に奪り、初めて3人で終わらせた。
達也は、ベンチに戻ると直也の肩をポンと叩いた。
「ナイス・ピッチング」
「…ああ…」
褒められ、やや照れた表情の直也。
「やっとおまえらしくなったな。後は反撃あるのみだ」
その時だ。鋭い打撃音がグランドに響いた。直也と達也の視線がグランドを捉える。打球はセンターとレフトの間を抜け、バッターの田畑は1塁から2塁へと向かっていた。