やっぱすっきゃねん!VA-3
「よっしゃあ!」
バッターは1塁を越えた辺りから悠々とベースを回りだした。東海中に3点目が入った。
マウンドにしゃがみ込み、打球の落ちた地点を眺める直也。そこに、新しいボールを持った達也が現れた。
「あんな胸元を攻めていない球じゃ打たれて当然だな」
「なんだと!」
直也が下から睨み付ける。だが、達也はまったく意に介した様子もない。
「それだけの口利けるんならビシッと抑えてみろ」
それだけ言うと直也にボールを渡した。マウンドを降りる達也は困っていた。
(あと何球か試して、ダメならインハイは使えないな…)
その後、6番バッターにはセンター前にヒットされたが、続く7番を三振に取り、ようやく東海中の攻撃は終わった。
「まったく…何をやってんだか…」
センター後方でノートに書き込む一哉は、自チームのふがいなさを嘆いた。だが、その顔には微笑みが浮かんでいた。まるで“こんな事は折り込み済み”とでも言いたげに。
青葉中ベンチは再び円陣が組まれた。
「いいか。初回の3点は忘れろ。ここから自分達の野球をやっていくんだ!」
円陣が解かれた。1番バッター乾が右打席に向かう。東海中のピッチャーは、先ほどホームランを打ったバッターだ。
小さく速いモーションから放たれるボールは、スピードやキレはそこそこだが、なにより“ズドン”とミットを鳴らすほどの重い球質だ。
「球が重そうだな。直也と違って、スナップをさほど利かさず全体重をボールに乗せる投げ方だな」
「へぇ、だったらどう打つんだ?」
少しイヤミっぽい直也の口調。達也はそれを無視すると、
「そうだな…バットを短く持って強く叩く。ウチのピッチャーが抑えてくれれば後半何とかなる…」
そう言って達也は直也を見た。その瞳に厳しさが映る。途端に直也の目がつり上がった。
「おまえ…もう一度言ってみろ!」
直也は怒りぶちまけ達也に詰め寄った。が、達也は冷静に言い返す。
「おまえは、先刻のデッドボールが頭から離れないんだ。だから胸元を突けずに打たれた」
「違う!あのホームランは、たまたま…」
「言い切れるか?もし、胸元が使えないのなら、おまえの力は半減しちまうんだぞ」
直也は次の言葉が出てこなかった。黙って睨み合う2人。
「クッ!」
その時、鈍い金属音がグランドで鳴った。乾が4球目を叩いた。しかし、ボールの重さにバットは一瞬、押し戻された。
打球はフラフラとライト側に上がった。東海中のセカンドは5〜6歩後に下がると、正面を向いてボールを掴んだ。