電波天使と毒舌巫女の不可思議事件簿 ―争い編―-1
現代社会は全てに置いて争いがある。
価格競争などの企業単位から、学歴、ステータスなどの個々人の能力。争いによって、優劣を決め、そして相手をあるいは自らを勝ち組や負け組といったカテゴリーに分ける。
そしてカテゴライズを嫌う人間程、実はカテゴリーにこだわっていると、気付いている人間は少ない。
(『カテゴライズにより生まれる善意と悪意の対処法』本文より抜粋)
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小林真琴〈こばやしまこと〉の自宅は神社の敷地内にある。
神社の周りには森があり、人家は意図的に遠ざけられている。そのため、夜は特に静かだ。
「ふわぁ」
もうすぐ期末試験なので、炬燵に潜って勉強していたが、つい欠伸が出る。真琴の部屋にも暖房はあるが、あのカラカラの温風が苦手なため、炬燵のある居間で勉強している。
炬燵の上には真琴の勉強道具の他に、色とりどりのペンジュラムがあった。ペンジュラムの半分はひびや欠けがあり、それを「う〜、う〜◎」と唸りながら難しい顔で弄っている美由貴〈みゆき〉がいる。頭をバサバサと掻いて、セミロング、というより中途半端に伸ばした髪をボサボサにしていた。
「う゜ー、難しいよ〜◎」
「言っとくけど自業自得なんだからね。ちゃんと元通りに直してよ」
先日、文化祭で規模の大きな〔現象〕が起きた。その時〔増幅器〕〈アンプ〉の殆どがなかった為、かなり不安に思ったことを思い出す。
〔現象〕は〔意志〕によって引き起こされる。これが真琴の流派の基本的な考えだ。
〔意志〕の力が大きい程〔現象〕の規模も大きくなる。人間一人の〔意志〕では起こせる〔現象〕も限られるため、〔意志〕を増幅し指向性を持たせ、特定の〔現象〕を起こせるアイテムが〔増幅器〕だ。
真琴の〔増幅器〕はペンジュラムという、占いなどに使われる振り子だ。使われている石の種類で起こせる〔現象〕も違ってくるのだが、殆どが壊れていた。
「なんでこんなぶっこわせるかなぁ」
「う、美由貴悪くないんだから! この、ヤワヤワ! 硝子式! ひぽぽたます! ポンポコプクトポリン!」
「ヒポポタマス、ってカバ…? ポンポコプクトポリン、ってもう何がなんだが」
「うー◎ プクトのこと、プクトそこにいるじゃないかぁ! おまヱイ可デMiゑなヰ?」
「うわ、マジでテンパりだしたよ」
「うおーー!! うー、〔増幅器〕なンヵ大っキらゐ!! うおおぉ待てぇぇプクトォオオ!!!!!!」
真琴がツッコむ隙を与えず、ドンドンと床に拳を叩きつけ、眼を見開き叫びながら四つん這いで玄関まで這って行った。異常なスピードだった。
「エ、エクソシスト?」
何かの〔現象〕を起こしたのかもしれないが、滅茶苦茶凄い形相過ぎて、とても口を出せなかった。
「うるさい、なんだ」
疑問文のくせに『?』をつけない素っ気ない話し方。禿頭に白い口髭で小柄な体躯の老人の眼は、鋭く光っている。
「……あーじぃさま。ちょっと美由貴が癇癪起こしちゃって」
じぃさま、真琴の父方の祖父。現在真琴は祖父と美由貴の三人暮らしなのだ。じぃさまは神社の神主をしている。無愛想だが、美由貴が天使であることをすんなり認めるあたりは柔軟性はある人だ。