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電波天使と毒舌巫女の不可思議事件簿
【ファンタジー その他小説】

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電波天使と毒舌巫女の不可思議事件簿 ―争い編―-11

 車の中で、少女は僅かに話してくれた。

 自分達の壊れかけた家庭。
 帰りたくない家。
 常に言い争う両親のいる、安らぎのない場所。

 我が子を取り戻せなかったら、自分達はきっと、全てを失うのだろう。


「優人!」
 母親が少年に駆け寄る。真琴はただ見ていた。
「優人」
 父親が、少年の頭に手を伸ばす。
「!」
 しかし少年は、怯えて避けてしまった。玩具箱の幻影が、揺れる。
「……優人」
 母親が、口を開いた。優しい声。
「お母さん達ね、間違ってた。お父さんも、気付いてくれた。お願い、チャンスをちょうだい」
「優人……」
 父親は、避けられたショックで踏み込めない。でもそれでも。
「一緒に、帰ろう?」
 必死だった。父親も母親も。
 その必死さがわからない少年ではなかった。しかし、一歩が出ない。
 少年は、園長先生に振り向く。助けを求めるように。
 しかし園長先生は首を横に振る。自分で決めなさい、と。
 少年の中で、あらゆる思いが争い合う。
「優人」
 母親の、切ない呼びかけに。
 少年はもう一度、振り向いた。

『――――』

「………っ!」
 園長先生が、何を言ったかは、真琴には分からなかった。
 しかし、少年の眼から、真珠のような涙が零れる。
 それを見た父親は、ただ黙って、園長先生に頭を下げた。
 それで全てが終わる。
「お父さん、お母さん」
 少年がようやく、一歩前に踏み出した。
 必要のなくなった〔遺志〕は、満足そうに消える。


 真琴はそれを、羨ましいと思った。
 ないものねだりなのは、理解っていたけど。


 天使はただ、一つの家族の再生の始まりを見守った。
 それが自分の役割でないことを、知っていたけど。


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