夏の終わりに Last-11
翌日。
その日、私は自分でも分かるほど変だった。朝から落ち着きが無く、何をするわけでもないのに、自室と階下をウロウロしていた。
そして、ようやく迎えた夕方。私の胸は高鳴なった。はやる気持ちで出掛けようとした時、クラブ帰りの愛理とハチ合わせになった。
「おうっ!今、帰りか」
「…う、うん…」
いつになく上機嫌な私を見て、愛理は困惑した顔をする。
「…出掛けるの?」
「ああ。ちょっと学校へな」
「学校って…確か立入禁止じゃ…」
問いかけを無視し、私は玄関口を後にした。
学校の正門は大きな門扉で固く閉ざされ、その周辺も遮蔽板が高く張りめぐらされている。
ここから入るのは無理と思い、私は裏門へと回った。正門と比べて低い扉なうえ、人目につきにくい場所だ。
私はジャンプして門扉をよじ登り、校舎裏の入口に手を掛けた。すでに来ていた篠原が、カギを開けててくれたようだ。
なるべく足音を立てずに3階に向かい、そっと準備室の扉を開いた。
篠原は、いつもの場所で上気した顔で待っていた。その顔を見つめるだけで、私の胸のうちは熱くなった。
「…じゃあ、始めましょうか」
柔和な顔の篠原。今日でこのモデルも終わりと思うと、私の胸に感慨深いモノが浮かんだ。
「…はい…」
服を1枚づつ脱いでいく私。そばで顔料と油を混ぜ合わせる篠原の表情が変わっていく。
モデルのすべてをキャンバスに写し取りたいと欲する画家の顔に。
だが、その思いは彼女だけでない。そのタカのような目。ただ、絵に没頭し、すべてを遮断する姿を私は欲した。
お互いの沸き立つ情熱と欲望の混じる中、静寂だけが部屋を包んだ。
「…ふ〜、出来た…」
小1時間ほど経った頃、篠原は満足そうな表情で両手を高く伸ばした。
「ち、ちょっと見せて下さい!」
私は慌ててキャンバスに近寄った。
黄色というかクリーム色を背景に、足をクロスさせ、両手を広げて天を仰ぐ私の周りに、コバルトブルーが塗られていた。
しかし、正直、私にはわからなかった。