命令××、拒否権なし!-3
(勝ったら、何させようかな)
休み時間になり、あたしは賭け――というより、賭けに勝った後――のことを考えていた。
もちろん、ランチを奢らせるなんてセコいことはしない。
『豪快に甘味食べ放題……焼肉でもいいかな。ああ、それと南野に女装させて校舎歩かせるのもいいな』
『お前なー』
南野が呆れたようにあたしを見やる。
『どうせ俺が勝つんだから、考えても無駄無駄』
『何言ってんの、あたしが勝つんですよーだ』
舌を出して言い返す。
ふと、あたしはこの賭けが南野の提案であることを思い出した。
『南野は、あたしに命令って』
そこまで言って、あたしは口篭った。
そして躊躇うように南野に訊く。
『……付き合えっていうのは、ダメだよ』
しかし南野は快活に笑って、あたしのあたまをくしゃりと撫でた。
『馬鹿、分かってるって。それに』
あたしの耳元で囁くように言う。
『それに、分かってんだろ』
『え?』
耳朶をくすぐる甘い声。
『俺がお前にする命令なんて、ひとつしかねーじゃん』
その言葉の意味するところは、十分すぎるほど分かっている。
『……ここ、教室だよ』
あたしは思わず顔を赤らめてそう言ったのだった。
そして、昨日。
命令を賭けた英文法の小テストの返却日。
あたしは南野の解答用紙と自分とのそれを比べ、愕然とした。
『……嘘』
『ほーら、俺の勝ち♪』
自信を持って解答した、あたしの答案用紙には五十五点の文字。
前回よりも二十点もアップし、暑村の課題プリントも避けられた。
しかし。
『賭け、分かってるよな?』
『………』
南野が見せびらかす答案用紙には、あたしのプラス三点――五十八点。
すごく悔しいけど、賭けは賭け。負けは負け。
あたしは頷く。
『……一日いうこときくんだっけ』
『そ。明日、な』
賭けには負けた筈なんだけど、少しだけ明日が楽しみな自分がいた。
だってあいつの"命令"っていうのは容易に想像ができて。
加えて、最近ご無沙汰だったからか、あたしのあそこは既に疼いていた。
(……新しい下着、下ろそうかな)
しかし翌日、南野はあたしの予想を超えたことを言い出した。
朝っぱらからメールで屋上に呼び出されたから何ごとかと思いきや、南野はいきなりあたしに小さな細長いケースを手渡してくる。
『これ……って』
『なーんだ。ヒント、姉貴の』
『それってヒントじゃないじゃん』
別にヒントがなくてもこれが何かは知っている。
『まさか、これ付けて授業に出ろとか?』
『ご名答』
楽しげに笑う南野の横で、あたしはケースからロータを取り出した。
お姉さんの……って、いいのかな。
しかし、これを付けて授業なんて。