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『お宝は永久に眠る』
【ファンタジー 官能小説】

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『お宝は永久に眠る』-1

 一足のブーツが大地を踏み締める。
 細い足を膝小僧の下まで包み込む、獣の革で作られた厚地のブーツだ。それが、柔らかい砂と一体化するように踝まで埋まり込む。
 ジワリと砂が蓄積した地熱が厚い革を超えて足先を熱する。
 足を上げると、足の甲からサラサラと細かい砂の粒子が零れ落ちた。鉱物が極小の粒となって出来たものよりも細かいため、まるで砂を踏み締めている感触などないに等しい。
 しかし、その粒子の細かさ故に、太陽熱を吸収し自重で地下深くへ沈んでゆくために熱の保存能力が高いのだろう。素手では触ることも出来まい。
 頭の中で考察し終えた細い足の持ち主は、砂と戯れるのを止めて後ろを振り返る。その勢いで砂色の旅装束のフードが外れ、肩甲骨まで伸びた赤褐色のストレートヘアーが虚空で綺麗な弧を描いてなびく。
 フードの下から現れたのは、まだ若い二十歳過ぎの女性の顔だった。それなりに丹精な顔立ちをしているが、気だるそうに「へ」の字に曲がった唇から溜息を漏らし、細めた瞼の中で黒真珠の如き双眸で遥か彼方まで続く大海を見据える姿に美とは程遠いものを感じる。
 永遠と地平線まで続く、砂だけの海。南北を分ける中心線に位置する、大砂海とまで称される砂だけの大陸を見渡す。ここまで歩いてきた足跡が、海から吹きぬける潮風によって風紋となり消え去ってゆく。
 一筋の緑さえ見当たらない砂の大地は太陽熱をありのままに吸収して地表近くに溜め込むため、暑さで体中から汗が噴出してくる。切り揃えられた前髪が汗で額にくっつくのが疎ましく、旅装束に隠れた白い腕で拭い取った。再び旅装束の下に腕を隠し、日に焼けてしまわないかと心配そうな顔をする。
 女性はフードを被り直し、視線を別の一点に投げかける。
 振り向いたのは、後ろをついてくるもう一人を待つためだ。女性と同じく、砂色の旅装束に身を包む青い髪の男。
 容赦なく降り注ぐ陽光を気にした様子もなくフードは外している。若くも凛々しさを残す顔立ちだが、その顔は疲れとも憂いともつかぬ表情で固定されている。
「遅いぞ。こんなペースでは日が暮れてしまう」
 歩み寄ってくる男に、女性が不機嫌そうに言い放つ。
 普段なら多少進行状況が悪くとも苛立ちはしないのだが、暑さと壮大な砂海の所為で虫の居所が悪かった。このマブール砂漠と名の付いた大地に降り立ってから、容赦ない日射に晒されて綺麗な景観も見ないまま半日を歩き通せば、慈悲深い聖職者でもなければ苛立ちもする。
「……お前が早すぎるんだ。もうちょっと、こう、ペース配分を考えろ、ペース配分を。日が暮れる前にはちゃんと着くように、疲れを残さない程度に歩いてるんだよ」
 女性の下まで辿り着いた男が、呆れ口調で反論する。
 二人が向かうのは、この大陸で唯一の街――クルウェという街だ。ちょうど大陸の中心にあるクルウェは、この砂漠を横断する者が一度は訪れる発展途上の街である。
 クルウェ以外にも小さな少数民族の集落はあるものの、ある程度の旅の必需品を得るには不十分と言えるだろう。
「しかし、話には聞いていたが、本当に砂しかないんだな」
 これ以上進行状況について文句を聞きたくないため、男が強引に話を変えようとする。
「砂漠だ。砂がなくて何が砂漠だ。それとも、サボテンの抱き枕でも作って持ち帰りたかったのか?」
「……遠慮しておくよ。俺達の目的は、抱き枕じゃなくてこの砂漠にあるお宝だからな」
 女性の皮肉とも付かぬ言葉に呆れを深め、ここへやってきた当初の目的を持ち出す。
 そう、彼らが求めるものは砂の大地でもなければ太陽の赤熱でもない。この砂漠に隠されていると噂され、砂漠の民が長年に渡って受け継いできた宝物だった。


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