今夜、七星で Tsubaki's Time <COUNT1>-6
「樹里さん遅いのかぁ。…じゃあ、今夜は椿さん…俺とどうですか?」
「…からかわないで下さい。樹里に失礼だと思わないんですか?」
「はっはー。1杯目、キール・ロワイヤルですよね? 待ってて下さい」
にっこりと営業スマイルな、ユースケ君。
その笑顔は天使の笑顔なんてもんじゃない、あたしには悪魔の笑顔に見える。
はあ…なんて奴…。
カウンターに戻るまでにも女性客にボディータッチ。
さっきと同じ笑顔で、楽しそうに口説いてる。
樹里は大人で、こんな誰にでもサービスするユースケ君と寝ても割り切れるのかもしれないけど。
あたしは――絶対ユースケ君みたいなのは嫌だ。
早く…樹里来てくれないかなぁ。
そんなことを思っていると、あたしの目の前にグラスが置かれた。
顔を上げると、ユースケ君が立っている。
「お待たせいたしました」
「ありがとうございます」
そう言いながらも、思いっきり睨みつけてやった。
悪魔の笑顔になんか絶対に騙されない。
「…この店で初めてですよ、俺のこと睨んでくる女性客。殺意こもってるもん」
「…ほんっと、遊び人なんですね」
呆れて、あたしの口からはそんな言葉しか出てこない。
ユースケ君はあたしの元を去っても、別の客の頬にキスしたり、平気で肩に手を添えたりして、あたしはその度にユースケ君を睨んだ。
睨めば睨むほど、ユースケ君は笑ってあたしを見てくる。
「ごめんっ! 遅くなっちゃった!」
ユースケ君はあたしを挑発し、あたしはユースケ君を睨み…を繰り返しているうちに樹里が店にやってきた。
本当に急いでやってきたみたいで、はぁはぁと息をしながら申し訳なさそうにあたしに謝る。
「うん。もう飲んじゃってるし」
グラスを持ち上げて少しばかりそのグラスを振り、飲んでいることを告げた。
ほっとしたように樹里は微笑むと、コートを脱いで椅子に座る。
「椿のことだから、飲みもしないで待ってたらどうしようって。ごめんね」
「ううん。気にしないで」
そんなやりとりをしていると。
「樹里さん。やっと来た! ご注文はキール・ロワイヤルですよね?」
…またもや…色魔、登場。