私の存在証明@-3
♪♪♪♪♪
「あぁごめん、僕だ」
二の次が告げずにいた私達の空気を壊すかのように、突然鳴る着信音。
一瞬着信ディスプレイに映る名を見て安堵の表情を見せると、俊博さんは電話口に二、三会話し電話を切った。
「遥香ちゃんに紹介したい人がいてね。……あぁ奏太こっちだ」
俊博さんの声と共に現れた少年。
いや青年といってもいいかもしれない、顔には若干幼さが残る。けれど、スラリと伸びた手足の所為か醸し出す雰囲気は、とても大人びていた。
奏太と呼ばれた人物は、俊博さんを見つけると手を上げて、歩み寄った。
「何だよ親父、急に呼び出して」
うっすらと茶味がかった前髪が、動きに合わせてさらりと流れる。
私の姿を見留めると不穏な空気を察してか、俊博さんの横に座ったきり黙してしまった。
「僕の息子、奏太(かなた)歳は十五。今度高校生一年生になる。遥香ちゃんの一つ下だね」
「えっと平田遥香です。宜しくね奏太君」
「年下だし、奏太でいい」
ぶっきらぼうな言い方。でも嫌な感じはしなかった。
顔をこっそり覗き見る。鼻筋は俊博さんに似てる、でも穏やかな印象を与える目尻は似てない。奏太の大きな瞳きっと母親似なんだろう。
「えっと、千夏さんつまり君のお母さんと僕は近々結婚する予定で……」
俊博さんは口重げに続けた。
「こいつが入学する高校の場所の都合とかで、千夏さんの家で暮らすつもりだったんだけど……」
また沈黙。
無言の空間の隙間に、予定外の私の存在を問い質す雰囲気が流れた。
要は、私の存在を知らされていなかったんだ。
「大丈夫です。私出て行きますから」
俯いていた奏太が顔を上げた。俊博さんは目を見開き、意味もなくあたふたと手を振った。
「どうして君が出て行くんだい?」
「もともと遅かれ早かれ出て行くつもりだったんです」
「けど」
「あぁそれと、お母さん責めないで下さいね。別に私のこと隠してた訳じゃないんです」
その意味を計りかねたのか、腑に落ちない様子の親子二人。
「私の存在は無かったことになってるんです」
私は数年前の回想に耽りながら、ゆっくりと語り出した。