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私の存在証明
【純愛 恋愛小説】

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私の存在証明@-2

「千夏さん……今の子は?」

 呆然とした男の人の声が聞こえる。

「子供?独り暮らしよ私」

 あっけらかんと答えるお母さんの声も。

「今高校生位の女の子が……」

「あら?大きな座敷童でも居たのかしら」

 お母さんの小さく笑う声が聞こえて、それ以上の言及を避けたのか、それっきり男の人は私の事を聞くことはなかった。

「それでね……さんが……笑っちゃった」

「……と……言って……だよ」

 二階に隠れていると二人の会話が途切れ途切れに耳に届く。
 楽しそうな声。お母さんとあの男の人は恋人同士なのかな、私はそんな事を考えていた。

 一瞬見えた男の人の顔立ちは、お父さんに若干似ていた。
 すっきり通った鼻筋、垂れた目尻は温和な印象。きっと、笑えばよりお父さんに似るだろう。

 良かった、と呟く。
 お母さんの精神の根底にはお父さんは存在しているのかもしれない、それが嬉しかった。


「じゃあまた」

「ええ、外まで見送るわ」

 一時間程の滞在で、男の人は帰って行った。玄関が閉まる音を聞いて溜め息をついた。不審に思われたかな、と思案しながら階段を降りる。

「千夏さん、忘れ物したから少し待っててくれないか」

 男の人の声がまた耳に届く。
 その言葉の意味を認識する前に、扉が開く。
 慌ただしい足音が聞こえ、不意に腕を掴まれた。体を引っ張る力に逆らわずに振り向けば、そこにはさっきの男の人。
 よっぽど急いだのか、足元は片足靴が残ったままの可笑しな状態だった。

「君は誰だい?」

 穏やかな声、けれどその表情はとても固い。

 口を開いて、すぐ噤む。
 この場を楽に切り抜けられる嘘を、私は持ち合わせていなかった。


――――

「平田遥香、高校二年生です……あの人の娘です」

 私の言葉に、俊博さん―と先程自己紹介された―はあんぐりと口を開いた。

「あの人って、つまりは千夏さんの娘?」

「はい」

「そんなの聞いてなかったなぁ……」

 参ったなぁと続けて呟きながら、俊博さんは手持ち無沙汰に髪を掻いて、大きく息を吐いた。

 私達は近くのファーストフード店に居る。
 あの後、俊博さんに捕まってしまった私は何も言えず「話をしよう」と連れられ此処にやってきた。
 騒がしい店内で、向かい合わせに座る私達。妙な雰囲気を感じ取ったのか、混む客席で私達の周囲だけはやけに空いていた。


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