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「demande」
【女性向け 官能小説】

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「demande」<津上翔太朗>-9

―――――――
二人には狭いソファで、包むように樹里さんを抱きしめた。
先に口を開いたのは彼女だった。

「…夫は…好きでもなんでもない人なのよ」

好きじゃなくなった…のではなく、元から好きじゃない…ということだろうか。
吐き捨てるように言った樹里さんの頭をそっと撫でた。

「私、好きだった人とは…結ばれることができなかったの」

「…その人は…別な人と結婚したんですか?」



「…難病だった」

彼女の顔は見えなかったが、きっと無表情だったと思う…。

「親が連れてきた今の夫には…経済的に助けてもらってる。親の借金を消してもらったし…。ま、そのために結
婚させられたんだけどね…。でも、結婚しても夫を好きになんてなれなかった…。今もずっと…。」

「僕を呼んだのは…」

「…少しだけ似てたのよ。生きてたら…24歳だしね」

複雑な気分だった。
なんて言ったらいいのかも…わからなかった。
こんなとき…要さんだったらなんて言うのかな…。

―――子犬のような翔太朗

そんな自分がひどく非力に感じた。

「朱美の話を聞いたときは…いつもの軽いノリで話を聞いてた。朱美は…「いい子だから樹里も予約してみなよ
」って言ってたけど…自分が利用したいだなんて思ってなかった。何気ない興味本位でサイトを開いて…「プロ
フィールの左から4番目ね」と言ったことを思い出して見てみた。…君の写真を見て…あの時の想いが押し寄せ
てきたの」

樹里さんは…「おかしいでしょ?」とでも言うように、自分自身を蔑んでいた。

「一度依頼した執事は…二度と依頼することができない。それを知って…君を呼ぼうと思った…。彼が卒業する
まで健全なお付き合いを…と決めてたことを、少しだけ後悔してたから…一度だけでよかったの。…身代わりの
ようなことさせちゃってごめんなさい。」

「今…後悔してますか?」

「…え?」

「僕とこうしていて…後悔してますか…?」

彼女は僕のほうを振り返って…寂しげに微笑んだ。

「後悔なんかしてないよ…。ごめんね、嫌な気持ちにさせちゃったね」

「執事は――――どんな場合でもお嬢様の望みを叶えてさしあげるもの …そう教わりました。今日のことで、
樹里さんを悲しい目に遭わせたんじゃないか…そう思うと苦しいです。樹里さん、まだ時間はあります。僕にで
きることは…もうありませんか…?」

そう言った僕の口を、彼女は柔らかい唇で塞いだ。
目に…涙をためて。

「望みなら叶えてもらった。夢を叶えてもらったのと同じよ?これ以上の幸せはないわ。それに…彼のことを思
う日々は続いても、未練だけはなくなったように思えるの」

ぎゅっ…と強く抱きついてきた彼女は、子供みたいだった。

いい匂い…


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