Stealth Last-2
「あの頃って、たった3年前の事ですよ。そういう李さんも、あの頃とちっとも変わりませんよ」
「私はもうダメですよ。もう足腰も弱ってしまって」
「そんな事はないでしょう。かつて“華僑のドン”と言われたあなたに限って」
お互いの挨拶は終わった。笑っていた李の表情が硬くなる。
「…ところで、今日は何のご用で?」
李は、身体をソファに預けたまま恭一の顔を覗き込む。その目は何かを探っているようだ。
恭一も表情を硬くすると、
「李さん…今日は商売の話で来たんです」
「商売って…私の“裏の商売”ですか?」
李の問いかけに大きく頷く。
「そうです。あなたにC‐4を20キロ売っていただきたいのです」
その途端、李の目が変わった。
「…C‐4、20キロ…をですか?」
再び力強く頷く恭一。
「この日本でC‐4を扱ってるのは貴方だけでしょう?」
「確かに私だけでしょうが…戦争でも始めるんですか?」
思わず口に付いた言葉。李は、すぐに口をつぐんだ。
「失礼……捕まえる側だった貴方が、C‐4などと仰るものですから、つい…」
李の失言に、恭一はにっこりと微笑んだ。
「李さんのお気持ちは分かります。しかし、ご心配なく。人を殺すために使うのではありませんから」
そう言った恭一の目は、真っ直ぐに李を見つめていた。
李はしばらく考えたが、やがてため息を吐くと、
「仕方ありませんな…貴方の頼みなら…」
「ありがとうございます。李さん」
どちらからともなく、ソファを立ち上がり握手を交わした。
「デリブァーは?貴方の事務所に」
「いえ、私の事務所はヤバい。この住所に届けていただけますか」
恭一は、李に住所を書いたメモ用紙と現金を渡した。
李はメモ用紙を一瞥すると、
「分かりました。明日にも届けましょう」
「万事よろしくお願いします」
李に深々と頭を下げ、恭一は中華街を後にした。
夕方。
中華街からオフィスに戻る途中、雑居ビルの前を見て恭一は舌打ちした。
明らかに見慣れぬクルマが停まっていたからだ。
「…まったく…」
恭一は、ルノー4を地下パーキングに停めると、先ほどの見慣れないクルマのそばに近寄った。
乗っていたのは佐倉と宮内だった。