G[M]-5
三
『やっぱりその程度か。』
本当は彼女には彼氏などいなかった。だから、海斗に話したことも全てウソだった。
何故彼女がそこまでしたのかと言うと、簡単に答えを出してしまっても、すぐに別れてしまうんじゃないだろうか、と考えていたのだ。元彼みたいに。
彼女も彼女で好きだった。けれども簡単に言えることではなかった。勇気が必要だった。そしたら彼の方から言ってくれた。言葉にならないくらいビックリしたけれど、それと同時に、言葉にならないくらい嬉しかった。その言葉を待ってたと、もちろんと言いたかった。しかし、彼の真意を確かめるためにはこうするしかなかった。
海斗はその場の成り行きで言った。だから、こういう結果を招いたのだろう。
『はー。』
誰にも聞こえないため息を吐いて、今日も彼女は最後までしっかりと働き、明日ここを止めようと、そう決心した。
俺には女運がないのだろうか。一人で帰り道を歩きながら、この寂しい生活にピリオドを打つことのできなかったことに対しての、自分の悔しさ、惨めさ、情けなさ、全てが頭の中を駆けめぐる。
『はぁー。』
彼女の気持ちが自分にあるのに気付きもしない海斗は、もちろん諦めていた。もし、あの場で無理にでも彼女に彼氏と別れてくれとでも言えたなら、明日から楽しい生活が待っているというのに。
正直、自覚していた。自分にはその気がなかったんじゃないだろうか。行き当たりばったりで生活してちゃダメだと、海斗は思い直していた。
『あ。』
目の前には綺麗な高層マンションがあった。
『いつの間にか家についちったよ。』
セキュリティ万全なマンションの玄関で、鍵を差し込みガラスの扉が開く。エレベータに乗り、行き先は11階。15階あるうちの11階だ。相当高い。値段の意味でも、このマンションの高さの意味でも。
11階に着くのがいつもより格段早かった。いつもならこんなに思い詰めることもないのに、変に考え込んだせいだ。自分の家の扉の前に立ちはだかり、再び鍵を差し込む。
“ガチャリ”と音がして、真っ暗な部屋が広がっていた。
『ただいまー。』
誰もいないに言ってしまう。一人暮らしで寂しい奴がよくすることだ。一年前まではそんな連中をあざ笑っていたのに、自分がいつの間にか口にしていたとは。海斗はこのとき、一年前に自分が放った言葉を思い出しはしなかった。
全身の力を抜いて、ベッドに倒れ込む。何故だろう、自然と涙がこぼれた。誰もいないのに、恥ずかしさがこみあげてきて顔を伏せた。それから顔を上げることはできず、気付けばいつの間にか朝だった。
おそらく、今の格好からしてあのまま眠ってしまったのだろう。その直後に昨日の夜のことを思い出し、急に恥ずかしくなった。しかし、そんなことをしている場合ではなかった。時間を見れば、センターでの朝礼に間に合うかどうか分からないぐらいだった。しかし、腕時計は4:12と点滅しており、壊れているのだろうと気にしなかった。
バタバタとした足取りで、部屋を後にする。鍵をかけた後に、女のことはとりあえず忘れよう、そう心に決めた。