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地図にない景色
【初恋 恋愛小説】

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地図にない景色-2

「恵美…」
何か言ってあげたかった。「元気出して」とか「そんなことしなくても、きっと良いことあるよ」とか。だけど結局、何も言えなかった。
そんな安っぽい言葉では彼女は救えないのだ。
強ければ強いほど、一度傷ついてしまうと容易には治すことができないんだと、あたしは思う。
へこんでしまったスチール缶が、もう二度と元の形には戻せないように…。
「聖もよく言ってるよね。『毎日がつまらない』って。だから、誘ってみたんだけど…ごめん。無理なら良いんだ」
そう言って、恵美は笑ったけど、それはどこか淋しげで、あたしには母親からはぐれて迷子になってしまった子供のように見えた。夕暮れの街にぽつんと取り残された小さな子供。
差し伸べられる手を持っているのは、今のこの場ではあたししかいないように思えた。
それが例え、仮初めや擬い物の救いでしかないのだとしても…、無いよりはマシなんだと、信じたい。
「行こう、恵美」
あたしは彼女の手を取って先を歩いた。
引かれるままに、恵美もついてくる。
「無理なんかじゃない。あたしはあんたを、見捨てたりなんかしない」
交差点の信号が赤から青に変わるのを待って、あたしは言った。
動き始める人の群れと、信号待ちのエンジン音。
だから、あたしは喧騒のせいにして、背中の声を聞かなかったことにした。
「ごめん。…ありがとう」


その日、あたしたちはコンビニで、とある栄養補助食品を万引きしました。
初めて盗んで手に入れたそれを、あたしたちは人気の少なくなった公園で、分け合って食べました。
チョコレート味のそれは何故か、全然甘くなくて、とても苦い味がしました。


それからあたしたちは、放課後になると度々、万引きを働くようになった。
コンビニ、スーパー、CDショップ。ホームセンター、ゲームセンター、本屋、文具店…。
どうやら、あたしたちには盗みの才能があるらしく、どこで何を盗もうと、誰かにばれるということはなかった。
味をしめたあたしたちは、学校のない休日でもお構いなく、街で待ち合わせをしては、バックいっぱいに盗品を詰め込んで帰るようになった。
最初の頃に感じていた罪悪感はもうほとんど、無くなっていた。
それどころかいつしか、あたしたちは自分達が盗んできた商品の数を競い合うようにすらなっていた。―今日、あたしはこれだけ盗ってきたよ、と片方が言えば、
―なんの、あたしはこれだけ盗ってきた、ともう片方が言い、
―何っ、そんなに盗ってきたの!?、と大げさに驚いて見せれば、
―あたしの手に掛かれば、ざっとこんなもんよ、と冗談粧しに胸を張った。
あたしたちは完璧に万引きという行為、いや…あの日常では決して味わうことのできないスリルの虜になっていたのだった。
そんなことが一ヵ月ほど続いたある放課後のこと。あたしはあいつに出会ったのだ…。

そこは商店街から少し離れたところにある、コンビニだった。
そう、あたしが生まれて初めて人様の物に手を付けた、あのコンビニ。
その日は書入れ時にも関わらず、店のなかは大分、空いていた。
五十を軽く越えていると思われる店長らしきおじさんに、レジで暇そうに立っている大学生くらいのお兄さん。あとは男と女の立ち読み客が二人いるだけだ。あたしを含めて、店のなかには五人しかいない。
この三日ばかり恵美とは、別行動をとっていた。
もうすぐ中間試験が近いから、しばらくは真っすぐ家に帰るのだという。
あたしは品定めをするふりをして、店内を回った。ガム、キャンディー、チョコレート、マニキュア、化粧水…次々と手にとっては、制服のポケットに詰め込んでいく。
ふと、例の栄養補助食品が目に飛び込んできた。


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