桜が咲く頃〜想い〜-2
鈴は、はっと我に返り、身をよじった。
その際、着物の袖を踏んでしまい、バランスを崩して後ろにひっくり返ってしまった。
『痛っ…』
鈴は、ひっくり返った際、後頭部を軽く打った。
『大丈夫か?』
仰向けになった鈴の目の前に、矮助の顔が…
『大丈…!』
矮助を押し返そうと腕を伸ばした時、鈴は見た。
自分の腕に付いた無数の傷。
左腕の、肩より少し下に描かれた、桜の花の刺青。
その下の――
(俺はバカだ…
俺は誰かに愛されるような、誰かを愛せるような、そんな…)
『鈴?』
矮助はそっと呼んでみる。
鈴はゆっくりと起き上がり
『出ていけ。
俺はお前の戯言に付き合うつもりはない』
冷たく言い放つ。
『戯言…?』
驚く矮助に、鈴は冷たい態度を崩さない。
『そんな嘘、誰が信じるか』
『ちょっ…ちょっと待てよ鈴。
俺、嘘なんか…』
『はやく出てけ!』
『嘘なわけないだろ!!』
大声を出され、鈴は矮助を見る。
『好きでもないやつにキスなんかしないし、屋敷に引きとめたりしない!』
『屋敷に、引きとめる?
俺はお前に、雇われたのだろう?』
鈴が聞き返すと、矮助は、しまったという顔をする。
鈴は不安を感じ、追求する。
『どういうことだ!?
ちゃんと説明しろ!!』
鈴の剣幕に押され、矮助は仕方なく懐からあるものを出した。
それは――
『俺の財布!?
どうしてお前が…』
なくしたと思っていた、鈴の財布だった。
『ごめん…
俺、鈴は元気になったらこの屋敷から出て行くだろうと思って…
そしたら、また誰かの護衛をして、その間女だとバレないよう気を張って…
暖かい布団で眠らず、冷たい風呂に入り、いつでも逃げられるようにして、誰かのために命をかけて戦って、体に傷を作って…
もう…そんな生き方、してほしくなかったんだ…
この屋敷にいれば、俺が守ってやれる。
鈴の…力になりたかった…』
(何で、こんなに…)
『それに、俺自身、鈴と離れたくなかった…
ずっと傍にいてほしかったんだ…』
苦しそうな矮助の顔。
鈴は涙でぼやけて良く見えない。