光の風 〈回想篇〉中編-9
一方、
城内に戻ったカルサ達を待っていたのは、変わらずに慌ただしく賑わう女官や兵士達の姿だった。それは村に被害があまりなかった事を知った民達が、次々に我が家へと帰路につく喜ばしい光景でもある。
民達は兵士達の引率により、長い列を作りながら次々と部屋を後にしていく。カルサはそれを遠目に見ていた。
最初は安堵して微笑んだが、いずれそれは淋しい表情へと変わってしまった。今、彼が何を思い、何を悔いているのか、千羅には自分の事のように分かってしまう。
「貴方が自分を責めても事態は何も変わりません。諸悪の根源は皇子じゃない。」
思いがけない千羅の言葉に、カルサは驚いた。目を合わせても千羅は微笑むだけで、それ以上は口にしない。
カルサは微笑み、再び視線を民達に送った後、彼らに背を向ける形で目的の場所に足を踏みだした。
「大臣の所にいこう。」
歩きながら千羅に告げる。しばらく歩いていると正面に兵士が現れた。
カルサの姿を確認した兵士は走って近づいてくる。
「陛下!!」
ただ事ではない表情に二人を取り巻く空気が一気に変わった。自然と兵士を迎え入れるようにカルサも歩み寄る。
「どうした?」
兵士は息をきらしながら最後まで走って来た。
「ナタル隊長が目を覚ましました!」
「ナタルが!?」
兵士の第一声にカルサは食い付いた。
「それ以外にも重症患者が次々と!とにかく、早く救護室へ!」
息をきらしながら必要最低限の事を伝え、再び兵士は元来た道を走りだした。明らかに動揺していた兵士に促されてカルサ達も走りだした。
前回の襲撃で深手を負ったナタルがやっと目を覚ました。彼の目覚めを誰もが待ちわびていた。
気持ちが高ぶり足が比例して早くなっていく。必死で腕を振り、予想よりも早く救護室に三人は辿り着いた。
「陛下、こちらです!」
救護室の扉は開いたままで何人かが茫然と中を覗いていた。カルサは彼らを擦り抜けながら中へと入る。
しかし入った瞬間、カルサは足を止めた。それは千羅も同じだった。
部屋の中にかすかに光の煙が残っている。二人はそれに反応していた。
「これは皇子の力?」
カルサは様子を伺うように辺りを見回す。
「陛下…。」
消えそうな声がカルサを呼んでいた。すぐにそれが誰なのかカルサには分かってしまう。
「ナタル!」
声の方に駆け寄り、カルサは久しぶりにナタルと目を合わせた。彼の周りにはまるで彼を守るように部下の兵士が並んでいる。兵士は静かにカルサに道を開けた。