光の風 〈回想篇〉中編-17
「気になる事があります。」
レプリカの言葉にカルサは視線を送る事で応えた。
「今回の襲撃で私とセリナ様は、ある少女に出会いました。彼女はセリナ様に向かって真実を問いました。そして皇子の真実も。」
レプリカはカルサがどこまで太古の話をリュナにしているかは一切知らなかった。レプリカ自身が、カルサの名前と力、そして周りの環境を見て、太古の国の皇子という事を悟ったと言う。
「極め付けは、あの方の登場でしたが。」
あの方、それだけでカルサには十分すぎる程伝わったらしい。顔つきが厳しくなっていた。
「皇子、ライムという名に覚えはありますか?」
ゆっくりだがカルサの表情が一変した。小さな声で疑問符を出す。あまりに想像以上の反応にレプリカもとまどいを隠せなかった。
「あの、深い碧の瞳をした少女なのですが。」
何か吐き出しそうな衝動に耐えるように、カルサは手で口を覆った。目は泳ぎ、動揺から息が荒くなる。そんな彼の姿を見るのは初めてだった。どうしていいのか分からず、ただカルサの姿を見ているしかなかった。
目に涙さえ浮かんでいるようにも見える。
「皇子?」
たまらず彼を呼んでみた。カルサは応えるように何度も頷く。手の奥で深呼吸をし、自分を取り戻そうとする。しかし、彼の手は震えていた。
何かまずい事を口にしてしまったのではないか、罪悪感と後悔がレプリカの中に生まれる。
「すまない。」
自分の中に抑えきれずに、体を縮めるように俯いてしまった。こんな姿の彼を見るのは初めてだった。むしろ誰も見たことがないのではないだろうか。
想像を絶する状況にレプリカは混乱し始めた。何か言おうにも、なんと声をかけたらいいか分からない。何の解決策も見つからなかった。
「カルサ。」
声を聞いて初めてそこに千羅がいる事に気付いた。おそらくカルサの結界は彼を拒まなかったのだろう、難なく入り、いつものようにカルサの傍に付いていた。
千羅の気配を感じ取ると、カルサは口を押えていない方の手で千羅の服を掴んだ。助けを求めるように、決して離れないように、強く強く掴んでいる。
カルサの状態はどうみても普通ではない、しかし状況が分からない千羅は混乱しているレプリカに問うしかなかった。
「一体、何故こんな事に?」
千羅の声は聞こえ、意味も理解はしているが、レプリカは答える事が出来なかった。またあの言葉を出すとカルサはどうなってしまうのだろう。その不安が彼女を止める。
レプリカは千羅に目で拒否を訴えた。