文化祭-2
「………夕焼けを背にした高宮君も、かなり綺麗だよ」
かなりくさい言葉が聞こえてきた。
「夕焼けってのは魔力でもあんのかね」
夕焼けの写真とかを見れば、優しい気持ちになれる。夕日ってのはただでもらえる癒しだ。おっさんの抱擁なんかより数倍上等だ。
神林がまた隣りにきた。
「魔力ねぇ……魔力があったら、何でもできるかなぁ?」
「当たり前だろ。何のための夕日だと思ってんだ」
神林がため息を吐く。夕焼け効果か?かなり色っぽく聞こえる。
「私高宮君のこと好き」
流れるように、透き通った言葉がオレの脳を通り、染み渡った。
「……そっか」
「……なにそれ」
オレはつい微笑んでしまった。
「急にそんなカミングアウトされて、すぐに気の利いたこと返せってか?オレは神様じゃねーの」
「私には神様に見えたよ?気が付いたらいつもみんなをまとめてるし、みんなの支えになってる」
「気のせいだよ」
オレは神林を見た。神林は顔を赤くしながらオレを見つめている。
「………のさ…」
「…ん?」
「……あのさ、…あれだ。そんな剛速球みてぇな告白されたことねぇし、あれだけどさ………」
言いたいことがうまく伝わらないときは、苦しいもんだな。
「わかんねぇけど、神林のこと………全然嫌いじゃなくて……まぁ…ちょいと確かに好き寄りっていうか……」
情けない。神林の真っ直ぐな言葉に対して、オレは幼稚園児が投げるような、ひょろひょろなスローボール。何回地面にバウンドすんだっての。
「何が言いたいのよー」
「つまり………どっちかって言えば……オレも…好きです」
「………馬鹿?」
……どうやらオレのボールは失速して届かなかったようだ。
夕焼けよ、何故力をくれない?
「オイ高宮ぁ!!!」
クラスメイトが何人も教室に入ってきた。
「みんな探してたんだぞ!?ほら、今から先生のおごりでみんなで焼肉食べ放題の店に行くってよ!!高宮も行くぞ!?」
「へいへい」
「んだよノリ悪いなぁ。お前がいないと盛り上がらねぇから、早く行こうぜ」
「わぁーった。先に行っててくれよ」
友達は笑う。
「了解!!」
女の子達は同じように黒板を携帯電話で撮っている。みんなやっぱりやるんだなぁ。
「さ、行きますか」
ぞろぞろと教室を出て行くこの人波に乗ろうか。
「あ、ねぇちょっと…」
オレはドアの手前で振り返った。
「どうした?」
「あ、……いや…」
口ごもる神林。オレは携帯電話を出した。
「一枚撮らせて」
「え?」
「ほら、そこに立ってて。今いい感じで夕日が背にきてっから」
戸惑う神林を無視して、一枚撮った。
「なんで撮ったの?」
「……思い出」
もっと混乱する神林。
「今度から夕焼けと一緒に、神林のこと思い出せるだろ?」
「…なにそれ」
神林は笑った。オレも笑う。
こんなに素敵な思い出が作れたなら、もう十分だろ……?