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文化祭
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文化祭-1

高校生活最後の文化祭も終わり、オレは教室から校庭を眺めていた。
行事が終わったという虚無感を味わいたくない人達が、校庭で騒いでいる。
ある人は踊り、ある人はステージで歌い、ある人はひたすらに食べている。
陽も少しずつ落ちてきたそんな時間にオレは、たった一人で教室にいる。





文化祭





模擬店で焼き鳥の売り子をしていたから、服に匂いが染み付いている。まぁこれも思い出かと、ちょっと笑ってしまう。
黒板には、クラスメイトが書いた今日の意気込みだのなんだのが、寄せ書きみたいに書き連ねてある。
こういうのを見ると、悲しくなる。みんなも最後だってわかってるから、無理にはしゃいで、何かをカタチで残そうとする。気持ちは、本当にわかる。
とりあえず写メを撮った。薄暗い教室の黒板に描かれたみんなの想いは、絵になることこの上ない。
思えば今日は何をしたっけ?焼き鳥売って、売上計算して、店たたんで……
………しまった。まだ、思い出作ってない。
校庭を見る。この騒がしさはまだまだ治まりそうにない。
今から行くか?馬鹿な。オレには合わない。だからこうやって教室に逃げているのに。
「あ、ここにいたんだ」
教室のドアのほうを見る。そこにはクラスメイトの神林詩織がいた。
そんなに話した事もない相手だし、今は楽しくお喋りできる気分じゃないから、とりあえず校庭にまた目を移した。
「先生が探してたよ。『高宮のおかげでウチのクラスは大繁盛だったんだ!!』って、『抱き締めてやるっ!!』ってさ」
ウチのクラスの担任は、四十路を最近迎えた中年の男なので、抱き締められるのは勘弁だ。
高宮とはもちろんオレのことだけど、別に役に立った覚えはない。抱き締められる理由もない。
とりあえず出会ったら速攻逃げることにしよう。
「別に何もしてないよオレは。ただアホみたいに鳥肉焼いてただけだ。だから……ほら、あのお祭り騒ぎに乗り遅れた」
神林のほうを見ずに言った。何故か神林は隣りにきた。
「いいんじゃない?もらえる栄誉はもらっておけば?」
「それは加齢臭たっぷりの抱擁のこと?」
神林は笑った。そして黒板を見て、何かを思い付いたかのように携帯電話を出した。
「高宮君も撮ったら?」
「もう撮った」
「ありゃ、それは意外だね」
そう思われるのも、不思議じゃない。
何しろ高宮護って男は、やる気も、根気も、協調性すらないからな。
売り子だってジャンケンで負けただけだ。
「今日は楽しかった?」
神林が聞いてきた。
とても面倒臭い質問だ。楽しくないと答えれば、『なんで?』って返されるのが関の山だ。とはいえ楽しいって嘘もつけない。
「……さあな。充実はしたよ。焼き鳥出す事しか考えられないくらいにはね」
それしかやってないしな。
「そっか。私はね、結構楽しかったよ。みんなで一緒に準備したり、今日だってほら、成功したし」
「よかったな。校庭に行けばもっと沢山の思い出に出会えるよ」
「高宮君は行かないの……?」
「行かないよ。あそこから見る景色より、夕焼けに染まった教室のほうが綺麗だろ?」
言ってから、かなりくさい言葉を吐いたと気付いた。顔も赤いかもしれない。


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