未完成恋愛シンドローム - 白昼夢 --11
―ガチャ
「ただいまー」
「お邪魔します」
「誰もおらんから誰も返事せーへんで」
「あんたも「ただいま」てゆーたやんか!!」
―なんでこいつと居ると、毎回毎回声荒げなきゃならんのだ・・・。
「先に部屋いっといてー」
洗面所で手を洗っていると、コタローの声が聞こえた。
「はいよー」
手を拭き、洗面所から出ると、コタローは台所でなにかを漁っている。
少し軋んだ音を立てる階段。
上の階に上がると、すぐ目の前に扉がある。
扉を開ける。
「・・・」
―なんか、相変わらず微妙に汚いよなこの部屋。
取り敢えず、読みっぱなしになっている本を手に取り、パラパラと捲ってから本棚に直してやる。
「・・・・」
面倒くさくなって、カバンを端っこに投げ、一応は綺麗なベッドの上に身体を投げ出す。
「・・」
コロンの香りがほのかにする。
もちろん、コタローの汗の匂いも混じってる。
前にコタローが言ってたけど、あいつは夜はあんまり風呂に入らないらしい。
部活の後にシャワー浴びるし、朝軽くシャワーで寝汗を流してから来るから、とかって前に聞いた気がする。
「・・・」
―そういやこのコロン、カイトもつけてたな・・・。
そう思いながら、いつの間にか意識は闇に堕ちていった。
・・・・・。
暗闇の中。
膝を抱えて俯いている。
外からドアを叩く音と、カイトの声が聞こえる。
手当てをしてもらったあと。
男の人が家まで送るといってくれたのを断り、半ばはねのけて、走って家まで帰った。
念の為に病院行けとはいわれたものの、母さんにはあんまり心配かけたくないから言わないでおこうと思った。
悔しかった。
家に飛び込むようにして帰ってきたあと。
どうしたの?と、聞いてきたカイトも無視して1人、子供部屋に鍵をかけ、押し入れの中に閉じこもった。
涙が溢れ出してきた。
嗚咽も漏れてくる。
絶対にこんな姿誰にも見せたくない。母さんにも、カイトにも、他の誰にも。
痛いから?悲しいから?
そうじゃなくて、弱い自分が悔しかった。腹立たしかった。
だってオレは男の子だから。
男の子は、女の子とか、弱い人を、護ってあげなきゃいけないから・・・・。
・・・・・。
「イヴ」
声と一緒に、冷たい感触が首筋に当たる。
「ひゃっ」
瞳を醒ます。
「起きた?」
「ん・・・」
時計を見る。そんなに長い時間寝てた訳でもないらしい。
「飲む?」
コタローの持っているものに視線を移す。グラスが2つ。
「・・飲む」
片方を受け取り、口に運ぶ。
炭酸が口の中ではじけ、甘さで耳の下が痛くなり。
「コーラ?」
「ん」
気付かない内に喉が渇いていたのか、すぐに飲み干す。
それを見て、コタローもグラスを空ける。
コタローが横に座る。ベッドが少し軋む。