「demande」<高崎要>-10
―――――ちとせが目を覚ましたとき、紅茶のいい香りが漂っていた。
「お目覚めですか?」
要が優しい表情でたたずんでいた。
「私…服を…」
「お風邪など召されたら大変ですからね。差出がましいかとも思いましたが…」
「いえ…ありがとう」
要はそっと微笑み、蒸らし終えたばかりの紅茶をちとせに渡した。ちとせには、それがお別れの合図のように思えて切なくなった。
「もう…会えないんですよね…?」
「…申し訳ございません。当館の規則ですので…」
「私、本当にあなたでよかった。こんなこと頼んで…申し訳なかったけど、後悔なんてしてない。むしろ…心からよかったと思える」
「ありがとうございます。私も、会えてよかったと感謝しております。」
「…もう二度と会えなくても、私はあなたを忘れない。あなたはずっと…私の憧れの人。そう思っていていい?」
要はちとせの前にひざまずき、シルバーフレームの眼鏡を外して微笑んだ。そして彼女の手にそっとキスをした。
――――――あっという間だった。
幸せな時間を、ありがとう高崎さん。
ちとせは切なくも、少し強くなれたような気がして嬉しかった。
――――――
「おかえりなさい」
館のリビングには、要よりも5歳年下の翔太朗が待っていた。
「ただいま。他の者はどうした?」
「優斗さんが2階にいますよ。他は仕事へ」
要がコートを脱いだところに、優斗が降りて来た。
「お疲れ様です。いかがでした?」
「ああ…あれくらいの年の子を相手にするのは気が咎める…。」
「…処女だったんですか?」
「ああ」
「それは大変でしたね。要さんのお好みのHができなくて、大変だったんじゃないですか?」
優斗が少し皮肉を込めて言った。それを聞いていた翔太朗が
「え?要さんのお好みの…って、どんなのですかぁ?」
「翔太朗は知らなくていいんじゃないか?まだ、要さんのイメージを壊したくないだろう?」
「優斗。余計なことを言うもんじゃない。翔、気にするな」
「はぁい」
優斗は不適な笑みを浮かべ、今日の要の仕事を思っていた。