社外情事?6〜危機感認識の避妊知識・その1〜-6
「で?疲れてる理由は?誰かとよろしくやってやがったのか?」
誠司の目が薄く開き、じろりと健介を睨んだ。
「聞くな。プライバシーの侵害だ」
「に、睨むなよ……こえぇって」
「なら聞くな」
くぐもった声で呟き、そっぽを向く。
ちなみに彼の疲労は、パイズリ及びフェラチオの波状攻撃で搾り尽くされた結果。「今日は奉仕したい気分なの」という理由で本番は回避してもらえたが、人前でおおっぴらに言えるような理由ではない。
「……勤務時間になるまで少し寝かせてくれ。でないと仕事の途中に本気で寝そうだ」
故に誠司は彼をたじろがせた後、これ以上の質問は認めないと言わんばかりに冷たく言い放ち、顔を埋めた。そこから彼の疲労を感じ取った健介は、やれやれと肩をすくめる。
「はいはい、悪かった悪かった。時間になったら起こしてやっから、機嫌直してくれよ、な?」
「……頼む」
そして間を置かず、デスクに突っ伏した頭から小さく呼吸の音が聞こえ始めた。枕代わりにした腕の隙間を覗き込み、健介は誠司が寝に入った事を確認する。
溜め息が、一つ。
「色事、って所かね。そんなになれるなんて羨ましい限りだよ、全く」
一方、KIRISAWAカンパニー20階、社長室。
そこを職場とする玲は、たった今入社したばかりだった。
「もう、誠司君ったらさっさと行っちゃうなんて。入社まで一緒とは言わないけど、少しは長くいたい気持ちを理解してくれないかしら」
言葉だけは不満げだが、頬は緩むばかり。そして疲労で寝に入った誠司とは対照的に、こちらの表情に疲労はほとんどない。むしろ活力に満ち溢れているように見える。
当然と言えば当然だ。何せ彼女は、誠司と一夜を共にした翌日は情事も含めた一日の疲労よりも、恋人と共にいられた充足感の方が上回っている。加えて、昨日は誠司に奉仕しただけで本番には及んでいない。故にその疲労度は、本番に及んだ時よりはるかに少ない。むしろ疲れている方が不自然なのだ。
「ま、いっか。どのみちしばらく会えなくなるわけじゃないんだし」
鞄と脱いだ上着は、普段置いておく所へ。そして、鼻歌を歌いながら席に着く。どこかやる気が見られる姿勢だ。
――と。
ずきっ。
鈍い痛みが側頭部を走った。
「……っ」
感覚は、物や柱にぶつけた時に広がっていくものに近い。それは彼女には少しきつかったようで、耐えるためいつの間にか額に軽く手を当て左目をぎゅっと閉じてしまっていた。
「……」
ややあって痛みは引いたが、損ねた機嫌はすぐには戻らない。玲は腕を下ろすと顔をしかめ、ため息をつく。
「なんなのよ、もうっ」
座り直し、席に沈みそうになる。
しかし、不意にノック音。それを耳にするなり玲の顔は「社長」としてのものに変わった。彼女は社長らしく席に座り直しながら、「誰だ」と声を張り上げる。
「秘書課の高嶺です。朝早くに申し訳ないのですが、御相談したい案件がございまして」
「そうか。入れ」
「……失礼します」
ノブを捻る音に続き扉を開ける音。そして入ってきたのは、玲が直々に選りすぐった優秀な秘書の一人。重ねた書類を小脇に抱え、彼女はデスク越しに玲と向き合う。
「以前より準備を進めていた事業展開の件で、事態の変化がありました」
書類の一部が抜かれ、差し出される。玲は受け取るとすぐ目を通し始めた。
「業務提携先として検討していた会社に、ライバル会社が目をつけたようです。こちらに先んじて業務提携をもちかけようとする動きがあります」
一瞬、視線が秘書の方へ。
すぐ書類に戻す。
「対策として、そちらにある通りのものを用意しました。いかがなさいますか?」
対する返答はなし。
しばらくの間、デスクを叩く指の音のみが響く。その発生源である玲の表情には、若干の苛立ちが見られる。
一方、秘書は彼女の采配を待って佇むばかり。口をつぐみ見つめるだけである。