StealthB-7
「…あの、今田郁己さん?」
「私の名前を知ってるところをみると、君が梶谷美奈さん?」
美奈は小さく頷くと、素早く自分のロッカーに戻り、奥に隠していたぶ厚い封筒を今田に渡した。
今田はそれを黙って受け取ると、詰所のドアを閉めた。
「ふぅーっ」
恭一からの頼まれ事を果たした美奈は、肩で大きく息をすると元の席に腰掛けた。
「何だい?今のは」
広野が問いかける。2人のやりとりを不審に思ったのだろう。しかし、美奈はにっこり微笑むと、
「清掃中、トイレの洗面所で拾ったんです。警備員さんに伝えたら、先刻の人のだって…」
そう言葉を濁してゴマカシた。その顔は、重要な仕事を終えたような安堵感を湛えていた。
夕方。五島はアイ・オフィスを訪ねた。入口ドアを開けた時、彼は我が目を疑った。
奥のソファに腰掛ける恭一の顔からは、明らかに焦燥感が漂っていた。
「…どうかしたのか?」
少し驚いた表情で、五島は対面のソファに座った。恭一は両手を顔の前で合わせたまま、ポツリと言った。
「…今回は無理かもしれん」
五島が初めて聞いた恭一の弱音。彼は驚きながら理由を訊いた。
「何故、そう思うんだ?」
恭一は、これまで集まった事件後の情報を五島に聞かせた。
クルマから怪しまれている事や、今田を共犯と考えている事について、知りうる内容を細かく伝えた。
「その刑事はオレの知っているヤツか?」
恭一は深く頷いた。
「元1課の佐倉だ」
「…あいつか」
五島は不精ヒゲを撫でながらイヤな顔を見せる。恭一は苦い顔で言った。
「ヤツはオレを知っている。昔のキャリアからな。次に同じ事をやったら必ずパクられるだろう」
そう言った恭一は、テーブルに何かを投げ置いた。3センチ四方の黒い箱に、10センチほどのアンテナが付いている。
五島はそれを取り上げると、ジッと見つめてテーブルに置いた。
「…秋〇原辺りで売ってる盗聴器だな」
「テーブルの下に貼り付いていた。先日、来た時に仕掛けたんだろう」
「さすがに、こんなモノは効かないか」
「当たり前だ」
気勢の良い言葉を吐く恭一。だが、その目は弱々しく見えた。