StealthB-6
その他には、鑑識で得たデータが資料として添えられていた。
「手がかりになるモノは無しか…」
「よほど用意周到なんですねえ」
佐倉は訝かしげな顔を宮内に向ける。
「これだけ用意周到なヤツらが、ビルの侵入に関してだけ行き当たりで行うだろうか?」
「確かにそうですが、ずっと張っていた可能性もありますよ?」
「出て来るかも分からんのにか?」
佐倉の意見に、宮内は何も言えずに俯いた。
「ヤツらはあの時刻に、今田が現れるのを知っていた。いや、現れるように仕向けたんだ…」
佐倉は確信を持って自論を展開する。
「…しかし、それを証明するとなると大変ですね」
「もう1度、全ての資料を洗い直すぞ。ビデオをセットしろ」
課の同僚がひとり、またひとりと帰宅していく中、すっかり薄暗くなったオフィスには2人の男だけが残っていた。
翌日昼。
「はぁ〜、お腹空いた」
播磨重工ビル1階の清掃員詰所に、掃除婦達が戻って来た。これから昼食の時間だ。
各人、ロッカーから弁当や水筒を取り出し、銘々のイスを円く並べて腰掛ける。
美奈もロッカーから弁当を入れた手さげ袋を持って来ると、いつものように広野のとなりに座った。
「いただきま〜す」
両手を合わせた後、弁当のフタを取って美奈は微笑む。
「嬢ちゃんのは豪勢のだねぇ」
美奈の弁当を見た広野が感心する。
おかずは玉子焼きに串に刺したミートボール。きんぴらゴボウとレタスを敷いたプチトマト。ご飯には鮭フレークの掛るほど、手の込んだモノだった。
美奈は顔を赤らめた。
「ほとんどは冷凍食品や調理済みで売ってるモノです。唯一、作ってるのは玉子焼きだけで、それも母親に作ってもらってるんです」
「なんだい、未だに親に頼ってんのかい?自分の弁当ぐらい自分で作れるようにならなきゃダメじゃないか」
広野の叱咤に、美奈は肩をすくませ顔をしかめる。
「でもタケさん。ここって朝早くて…」
「何を言ってるんだい。あんた以外は皆、自分でやってるんだよ」
追い討ちを掛ける広野の言葉に、美奈は“はあ…”と情けない声をあげた。その瞬間、周りの仲間がクスクスと笑った。
「こんにちは…」
賑やかしい詰所のドアを叩く音。その途端、和やかな表情だった美奈の顔が引きつった。
周りの仲間もドアを見つめる中、美奈は席を立ってドアを開ける。そこには恭一が伝えた特徴通りの今田郁己が立っていた。
美奈は戸惑いながら、仲間に聞こえないように小声で訊いた。