StealthB-4
「今田さん。貴重な情報ありがとうございます。約束通り、あなたへの報酬100万円は差し上げますよ」
「えっ?」
今田は面食らった。
「明日の昼、ビルの1階にある清掃員の詰所を訪ねて下さい。
その清掃員、梶谷美奈という女性に預けておきますから」
今田は恭一の言葉がにわかに信じられない。
「…しかし、失敗したのに…」
「あなたは精一杯協力してくれた。ですから報酬を払うのは当然です」
「あ、ありがとうございます」
今田の顔に生気が甦る。
「今後は連絡することはありません。このアドレスも直ちに消去して下さい。もう、一切、関わりありませんから…」
恭一からの電話が切れた。今田は、しばらく携帯を見つめていたが、すぐににこやかな表情になると仕事場へと戻って行った。
「…まずいな」
今田との電話を切った恭一は苦い顔を浮かべた。
(いくら佐倉でも、今田からオレ達の事を引き出せるとは考え難い。未遂だから、後、2週間もすれば捜査も縮小されるだろう。しかし、高鍋との期限は後10日間……)
オフィスに黄昏の陽光が射し込む。恭一は窓際でそれを浴びながら、思考を巡らせていた。
夕食後の早い時刻。美奈は床でストレッチを繰り返す。掃除婦を初めて2週間余りが経過した。
仕事にはようやく慣れてきたが、筋肉痛は相変わらずのため、少しでも和らげたい思いから入浴後の日課としていた。
「…いちっ!にっ!さんっ!…」
しかし、スポーツを苦手としているためか、かけ声とともに前屈や開脚を続けるが、あまり効果的なようには見えない。
その時、美奈の母親が部屋に入って来た。
「美奈。電話よ」
美奈はバランスボールにあお向けの体勢で訊ねる。
「…誰から?」
「恭一君からよ。早くなさい」
(何?また仕事の話かな…)
美奈は良からぬ内容ではと、不安に思っていたが、
「ホラッ!早くなさいって」
「わかった…」
母親に急かされ、起き上がろうとする美奈はバランスボールから滑った。
「うわぁっ!」
勢いで尻をしたたかに打った美奈。顔を歪めて階下の電話口へと降りて行った。