StealthB-3
「…あの今田ってヤツ、間違いないですね」
宮内の問いかけに、佐倉は視線を前方に向けたまま、
「そうだな…」
「だったら、任意で引張りましょうか?」
「…いや、そのためには矛盾点を探す必要がある。あいつの証言と、事件とのな」
佐倉の言葉に、宮内はため息を吐いた。
「難しいでしょうねえ、あれだけ否定してますから」
「とにかく、今は監視カメラの映像の分析だ」
「はい、分かりました」
2人を乗せたクルマは、大通りを左折すると西へと走り続けた。
今田が佐倉達に事情聴取を受け、仕事場に戻ろうとするところに携帯が震えた。ディスプレイを見ると“M”とだけ表示されている。
今田の顔色が変わる。彼は辺りに誰もいないのを確認し、非常階段の方へ出ると携帯を繋いだ。
「…今田さん。こんにちは」
低く通りの良い声が耳に響く。今田は背中に冷たいモノを感じた。相手は賊のひとり、恭一からだった。
「あんた、大変な事してくれたな…おかげでこっちは逃げるのに苦労したぜ」
今田は固まったように何も言えなかった。恭一は構わず言葉を続ける。
「あんた、覚悟は出来てるんだろうな?明日から路頭に迷うんだ」
脅しにも、今田は言葉を発しない。
「何も言わないのか?そうかい、じゃあ後で後悔するなよ」
「…ま、待って下さい…」
恭一が電話を切ろうとした瞬間、今田は呟くような声を発した。
「…コンピュータのアクセス・コードは2種類あったんです…」
「なんだと?」
今田の話では、セキュリティのために午前0時から8時までと、それ以外の時間帯でアクセス・コードは異なるそうだ。
「…じゃあ、おまえは知らされていなかったのか?」
恭一の問いかけに今田は頷き、
「…け、刑事が会社に来て初めて知ったんです。2つのアクセス・コードが有り、その両方を知らされているのは、部長以上の限られた人間だけなんだと…」
(今田が騙すなら、当日に見せた行動に出るはずだ。あれが演技なら迫真過ぎる…)
考え込む恭一に、今田はさらに続けた。
「事件後、刑事が事情聴取に来たんですが、彼らは私とあなたがグルだと考えています」
「なんだって?」
「少なくとも、ひとりの刑事はそう決めつけていました」
今田は、受けた事情聴取について、詳細に至る出来事を恭一に伝えた。
(…このまま、関係を続けるとヤバイな)
恭一はガラリと口調を変えた。