ポッキーとプリッツ-1
「慎吾君のバカ!」
涙目で叫んだ彼女はそのままアパートから出て行ってしまった。
「つむぎ!」
慌てて名前を呼んでも、その声は鉄のドアに当たって消えた。
机の上にはケーキとおそろいのマグカップ。
たった五分前まで彼女は上機嫌でお茶の準備をしていたのに。
鼻歌交じりで紅茶を注ぎながら、笑顔で俺にこう言った。
『今日は何の日でしょうか』
付き合い始めて一年半、楽しく過ごしてきたけど喧嘩は絶えなかった。
原因はこの『何の日』というワードだ。
彼女、つむぎは記念日女。
とにかく何かとお祝いしたがる。
誕生日、クリスマス、付き合い出した日。それらはともかくとして、例えば初エッチ記念に初キス記念、初めて手をつないだ記念に初デート記念等々、上げればキリがない。
さあ、どうする?
今日は何の日か思い出してつむぎに謝りに行くか?
それか、もういっそ開き直ってしまおうか。
この先いつまで一緒にいるか分からないが、この手の喧嘩が月一ペースであるかと思うと正直うんざりする。
「…後者」
少し浮かせた腰を再びソファに下ろした。
なーにが"記念日"だよ。
知らんっつーの。
いちいちそれに付き合わされるこっちの身にもなれっての。
気晴らしにDVDでも見よう。あいつの事考えてても仕方ない。
棚に並べられたDVDを物色。
あぁ、DVDと言えば…
『何で忘れるの!?』
いつだったか、同じ理由でつむぎを怒らせた。
その日は"初めて二人で映画を見た日"だったそうだ。
『忘れる以前に覚える気もないんだよ!』
正直に言うと、俺に向かって綺麗にラッピングされた包みを押し付けてきた。
中身は、その時見た映画のDVD…らしい。日にちどころか見た映画すら忘れていた俺に対するつむぎの視線は冷たかった。
でも、俺が普通だろ。
一年前に見た映画なんか覚えててどうすんだよ。
DVD見るの、やめ。
結局つむぎの事を考えてしまう。
他に気晴らしになるもの…、
そんなもんあるか?
よくよく考えたら、この部屋にある本にしろCDにしろ、何かしらの"記念日エピソード"がある。
今手をつけかけたCDだってそうだ。
『初デートの時に入った喫茶店で一番最初に聞こえてきた曲なの』
なんて言ってたっけ。
ちなみにその時の喫茶店をつぐみは何故か聖地扱い。